カツマ

地獄に堕ちた勇者どものカツマのレビュー・感想・評価

地獄に堕ちた勇者ども(1969年製作の映画)
4.0
世の中には遅効性の毒というものがある。かつてドイツ国内に蔓延していたその毒の名前こそが、ナチズム。ナチス時代を描いているにも関わらず、この映画にはヒトラーは肖像画でしか登場しない。霧散するナチズムと言う名の毒を吸ったが最後、血で血を洗うような狂気の没落劇が幕を開けた!ルキノ・ヴィスコンティは1930年代ナチズムの恐怖を、ある製鉄一族の覇権争いに例えて描き、当時蔓延していた闇の正体を暴き出す。操られていることにすら気付けない、それこそが真の恐怖だったのだろう。

ナチスが政権を握っていた1930年代ドイツ。製鉄一家として君臨していたエッセンベック家。その日は当主ヨアヒムの誕生日のため、一家全員がヨアヒムの屋敷を訪れていた。世はナチズム一色。ヨアヒムはナチスを利用して家業の存続を宣言した正にその夜、何者かによって暗殺されてしまう。凶器は反ナチスを唱えるヘルベルトのものだったが、彼は時を同じくして逃走。一家は残された副社長のコンスタンティン、技術畑の重役フリードリヒの覇権争いへと雪崩れ込む。フリードリヒはヨアヒムの孫マルティンを取り込み、社長の椅子を手元に引き寄せるのだが、コンスタンティンの反乱を招くことになる。

この映画は一家のほとんど全員が物語に深く切り込んで来る圧巻の群像劇だ。特にナチズムへと自然に傾倒していくマルティンの姿は、正に扇動政治を体現していると言っていい。ロリコン趣味でエキセントリックなマルティン役を演じたのはヘルムートバーガー。彼の妖艶な美貌は凝縮された変態性と結合して、心地良いほど美しい毒花を咲かせている。
160分ほどの大ボリュームですが、物語の主導権を握る人物は次々と移っていくため、まるで3本分くらいの映画を一気に見たような満腹感を覚えることができる作品。THE ENDの文字が出た頃には、思わず大きく深呼吸をしてしまったほどでした。
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