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アレックスの655321のレビュー・感想・評価

アレックス(2002年製作の映画)
3.6
「時は全てを破壊する」

最も効果的な演出は“時を破壊すること”だった。
映画は、本来不可逆である“時間”を巻き戻すことが出来る。
何故こんな悲惨な事件が起こったのか、時を遡って明らかにしていく物語。
最も悲惨なy地点から幸福なx地点に視点は移動していくのに、痛ましさは増大していく。
不可逆とは残酷だ。

結果には必ず原因がある。
もし帰りに付き添ってれば…
もしあの道を選ばなければ…
もし付き合っていなければ…
もし生まれてなければ…
“原因”に際限はない。
[現在]は今この瞬間にも[過去]になる。“結果”になる。
最早過去となった結果より、未来の原因に身震いしてしまう。

そして真に恐ろしいのは暴力やレイプのシーンではなく、生まれてきたことそのものを揺るがされることだ。
存在が原因を作る事実。時間の矢から逃れるためには死しかない。もしくは意味ありげに登場する『2001年宇宙の旅』のポスターのように、神になるしかない。
ああ、そうか。
これはスターチャイルドの視点だったのか。
だとすると神様もラクじゃない。
不可逆であるが故の、過去の幸福を知らないのだから。
そう考えると“不可逆”っていうのはコインの表裏のように残酷で、救いだ。
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