糸くず

今年の恋の糸くずのレビュー・感想・評価

今年の恋(1962年製作の映画)
3.8
2016年最後の映画は、年末にふさわしい慌ただしくも微笑ましいラブコメで。

冒頭から「憂鬱なんだ」を連発する色白文化系男子の田村正和がかわいくて微笑ましい。不良たちになめられるのが嫌で、ボクシングを習い始めるあたりもこれまたかわいい(もちろん練習の甲斐もなく、ボコられる)。

主役は田村正和ではなく、と彼の兄である吉田輝雄と彼の友達の姉である岡田茉莉子。

岡田茉莉子の見事なツンデレっぷりが魅力的で、とても楽しい。吉田輝雄が置き忘れた女物のライターを見て「悔しい!」と嘆くあたりの、地団駄を踏む仕草。コンパクトを見てお化粧直しをする時や、後部座席から助手席に移動する時のニコニコした顔。両親から「好きな人のところへ行っておいで」と言われたのに、素直に喜ばずに、「行けって言うなら行きますよ」とぷんぷん怒って出ていく感じ。一流のコメディエンヌだ。

映画の核心は、熱海に行く途中で、吉田輝雄が岡田茉莉子に言う一言。「君は、自分以外はみんな不良なのさ」。

テキトーなことを言ってばかりの両親に育てられた岡田茉莉子は、「自分がしっかりして、弟の面倒を見なければ」と思っている。だから、弟が不良の友達とつるんでいるのが気にくわないし、吉田輝雄の父親が、妻が亡くなっているとはいえ、愛人と過ごすのも気にくわない。また、「料理屋の女中」という仕事柄、人間そのものにどこか幻滅しているところがある。

しかし、それでは窮屈であまりにもつまらないではないか。もっと思いのままに、自由に生きたほうが楽だし、楽しいはず。そうすることで、いろんなことが肯定できるはずである。

田村正和から化け物扱いされるばあやの東山千栄子、担任の先生の三木のり平、岡田茉莉子のテキトーな両親の三遊亭円窓と浪花千栄子と、脇役も充実。年末に観ることができて、本当によかった。
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