やっちゃん

ヴァンダの部屋のやっちゃんのレビュー・感想・評価

ヴァンダの部屋(2000年製作の映画)
4.5
取り壊しが進むリスボンの移民居住地区。そこに未だ住み続ける主人公ヴァンダと住人たちの日々を切り取るドキュメンタリーフィクション。

ヴァンダいわく、この町は「昔はジャンキーばかりじゃなかった」「思い出がある」町なのだという。ヴァンダは未来より過去を見ていて殻に閉じこもるように部屋でヤクばかり吸っている。埃まみれのガレキの町は虚しく、ヴァンダの言う面影はない。

ヴァンダやジャンキーは「昔」はヤク中ではなく、この町でそれなりに思い出を紡いできたのだろう。しかし今は居住地区の終焉と共に彼らも退廃しかかっている。
住人によって散り積もってきたであろう貧しさとクスリに頼る日々の影。それらを浄化するといわんばかりに町の取り壊しは進み、居場所を追いやられる緊迫と切なさ。

壁にスプレーされた大きな黄色のバツ印。取り壊しのサイン。人の手と重機であっという間にガラになる家々。住んでいた町が目の前で壊されていくのは、もしかしたら自分の存在さえ否定される感じかもしれない。逃げ場のない貧しさと居所の喪失のなかで、将来と生活への不安、惨めさとの葛藤と逃避が入り混じる。

なんの希望もない。終盤ヴァンダの部屋にも重機が取り壊す音が迫る。その後ヴァンダが何処へ行ったか、あの土地がどうなったか劇中から知る術はない。見終わった後、胸にヒリヒリとした虚無感とやけにギラついたヴァンダの眼光だけが残った。
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