Jeffrey

ヴァンダの部屋のJeffreyのレビュー・感想・評価

ヴァンダの部屋(2000年製作の映画)
3.0
‪「ヴァンダの部屋」

‪冒頭、廃墟の如く佇む見捨てられた街。

薬を吸う女のショット、ここはリスボン。アフリカの移民、鳴り響くノイズ、小さな部屋で暮らす女、路地、貧困の人々の姿。今、ゲットーにカメラを持ち込み2年間その現場を捉えたドキュメンタリーが放たれる…

本作はポルトガル映画若手作家の鬼才ペドロ・コスタが前作の「骨」に続く貧困映画で、製作の意図としては前作に出演していたヴァンダ・ドゥアルテが監督に“この映画はここで終わるはずがない“と言い放ち監督がその後、再び地区に戻って続編とも言うべき本作を手がけたとのことだ。

その彼女の日常をデジタルカメラで少人数のスタッフで2年間追ったのが180分に収められたこの衝撃的な映像である。

因みにトンデモなく退屈な作品だ。‬

‪そもそも都市リスボンから離れた場所にこんな酷いスラム街があるのは日本では考えられない。都内に浮浪者はいるが…。

いや〜かなりエグい…あの女性が咳き込む耳障りな音と厭世的な気分に陥るあの狭い路地と汚らしいゴミ溜めの生活の描写は途中で映画を見たくなくなるレベル。

ほぼ定位置のベッドから微塵も動こうとしない咳き込む女性のガリガリの体に、針を腕に打つ男やアルミホイルを炙る仕草だったり、口喧嘩だったり…とため息つきたくなる品性なき場。

ショベルカーで壊されるコンクリートの建物、フェイドアウトする帰結…凄い。

この映画の凄いところは劇中ほとんど薄暗い殺風景な小さな部屋を映し続けるカメラに多数の人々の出入りを捉えたり、被写体が一体何をしているのか観客はほとんど情報が得られない中、多分野菜を売って生活しているであろう彼女の気持ちが映像からは伝わって来ず、生きたいのか死にたいのかすらわからない。

ただこの映像から伝わるのは被写体がここに存在しているとの事だけだ。

それをショベルカー等が建物を壊している音が終始聞こえ、彼女たちのコミュニティを知れるのみ…。

そこに彼の作品のシンボリックとも言える黒色の肌を持つ青年の姿も見える。

彼は家がなく、そのゴミ溜めに居座る。

やはり15世紀から19世紀まで続いた奴隷貿易の歴史が大きく重なるのかもしれない。

インド洋に面する国々が奴隷貿易の為の植民地としてポルトガルに収奪される事は学校でも習うこと。70年代までにアフリカ諸国が独立を勝ち取る前はポルトガルによる支配があった分、彼らの出稼ぎ労働や多くの移民がここに押し寄せるその結果がこの貧困を生んでしまうと言う…

舞台の地区フォンタイーニャスは今現在消えてなくなった街である。

果たしてあの悪辣なコミュニティはどこに移動したのか、麻薬の汚染による生活環境を打破できたのか我々には知る由もない…。

この映画を見て昔「ホテル・ルワンダ」と言う映画に出演していたホアキン・フェニックスの言葉を思い出した。

正しく引用はできないが、確かこういうものだった"我々はどんなに悲惨な戦争や紛争で苦しんでいる民族をテレビで見ても、私たちはそれを見ながら食事し続ける。その場で可哀想と頭で考えていても行動に起こす事は無い"と…これが印象的だった。

本作もそうで、あれから20年も経った彼女、彼らの現状や行方は我々には知る由もない、所詮他人事なのである。なんて惨めな人生だお前も俺も…。

ほとんど室内で撮られた作品を180分延々と流している分、退屈な映画なので他人にお勧めする事は難しいが、気になった方は見ても良いのではないか。‬
Jeffrey

Jeffrey