えいがうるふ

デザート・フラワーのえいがうるふのレビュー・感想・評価

デザート・フラワー(2009年製作の映画)
5.0
私がアフリカでの女性器切除の慣習のことを初めて知ったのは高校生の時に図書館で見つけた本からで、その時の吐き気を催すほどのショックを今でも覚えている。

麻酔も消毒もない不衛生な環境で、無抵抗の幼児に対する無意味で野蛮な虐待が慣習の名のもとに今現在も行われている。生々しく想像できるその瞬間の痛みと恐怖だけでなく、将来に渡ってその女性の心と体を縛り付け、本来ならば新婦にとっても喜びであろうはずの結婚初夜に文字通り再び身体を切り裂かれる宿命までセットになっているという、信じがたい一連のシークエンスは、それが今も続く現実である以上、作りものの「ムカデ人間」シリーズを遥かに凌駕するおぞましさである。
なにより、それが何千年にも渡って母親や年長の女達によって実行されてきたということの根の深さがどうしようもなく重く、悲しい。

まさに砂漠に咲いた花のように美しいワリス。野生動物のようにしなやかな身体とどう動いても美しい骨格はまさに比類なく、確かに目の前にいたらプロのカメラマンなら思わず声を掛けてしまうだろう。
都会に出てきた彼女があまりにも自分の美しさに無頓着で無防備なので、いつどこで悪い男に騙されて酷い目に遭うんじゃないかとずっとハラハラしながら見ていた。
一方、そんなワリスとは対照的に、見た目も立ち振舞もやたら鈍臭くて(ちょっと「フランシス・ハ」の主人公を思わせる)人のいいマリリンがまたなんとも愛おしく、重いテーマの救いになっていた。ワリスの祖母に代わって彼女の存在に何度感謝したことか。

できるだけ多くの人に観て知って欲しい映画。