まりぃくりすてぃ

山谷 やられたらやり返せのまりぃくりすてぃのレビュー・感想・評価

山谷 やられたらやり返せ(1986年製作の映画)
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世界で一番“ごつい”ドキュメンタリー。まず誰も反論できない内容。

商業ロックを含むポピュラー音楽史上、最も“せつない”曲はといえば、「生きていけない。あなたのいない人生なんて。もう私は空っぽ。生きていけない。何も残ってないよ」と歌われた Without You だろう。ハリー・ニルソンやマライヤ・キャリーがカヴァーして世界的ヒットを繰り返したその偉大なバラード(X Japan のじゃないです)は、元々バッドフィンガーという英国ロックバンドが録音した非シングルカット曲なんだけど、共作してヴォーカルも分け合ったバンド中心メンバーのピート・ハムとトム・エヴァンスが、二人とも若くして首吊り自殺しちゃった。自殺しちゃった。。。

で、この『山谷』も悲惨。佐藤満夫監督が暴力団員に殺害され(遺体映像も冒頭に入ってます)、その遺志継いで監督第2号となった山岡強一氏も映画完成直後に同じヤツらに殺害されちゃったのだ!

階級闘争イズムな映画にカテゴライズされてるのかもだけど、内容は、さほど左がかってない。「仕事で汚れた衣類の洗濯代を無料にしてくれ」「日雇い労働者たちへの暴力的支配反対」「とにかくドヤ街の俺たちをもっと人間扱いしろ」とか、当たり前すぎることしか言ってないもん。
音声がきわめて聞き取りづらく、アジトみたいな地下映写室(中野区弥生町 plan-B)での背もたれナシが腰とお尻痛くて、観てて途中で私は疲れ果てちゃって、「早く終わってほしい」とひたすら願わされた。
我慢の甲斐あって、、、猿みたいな痩せた男(悪役)が労務者たちに吊るし上げくらって股をVの字に開いた劇画的な正座体勢でちょっとだけ詫びるシーンが、ナカナカの映え。編集した人たちもそう思ったみたいで、そこをささやかなクライマックスにして重い映画はやっと終わった。
わざわざ猿類から進化して今この世にいる私たち人類って、苦しめ合うために生まれてきてるんだろうか、と猿顔のアップ(の映え)なんかから思った。

ドキュメンタリーの定義は「記録映像(の敬称)」なのか。それとも「事実をもって真実を焙り出してみせる映像表現作品」なのか。後者だとすれば、単に“ごつい”だけじゃないもっともっとの炸裂度を世のすべてのドキュメンタリーに私は期待する。左翼の人たちは何ら恥じらうことなく「革命」という言葉を21世紀でも使い続けたらよい。できれば「日本は独立国じゃない。USAの植民地」と正しく認識した上で。