もるがな

リアル・スティールのもるがなのレビュー・感想・評価

リアル・スティール(2011年製作の映画)
3.7
ロボット版ロッキーと言ってもいい作品。ストーリーこそベタでよく言えば王道、悪く言えばひねりがないのだが、話のテンポと絵作りが上手く、また見所であるロボットボクシングはド迫力。

人々がより苛烈な闘争を求めた結果、無機物であるロボットに託したという筋立ては面白いが、その辺の設定部分の掘り下げが薄かったのが惜しい部分。しかしロボットボクシングが当たり前のように存在するという世界観の描き方は上手く、プロから非合法のアマチュアまで浸透しているあたり、超がつくほどのブームであるということは分かる。娯楽が多様化した現在ではこうはならず、だからこそ人生の全てを賭ける価値があるのだろう。主人公は過去の人間で謂わば表舞台を奪われた側なのだが、そんな主人公が屈託を抱えながらも夢中になるだけの説得力を感じた。

ヒュー・ジャックマン演じる主人公はクズで聞き分けが悪く、また精神的にも幼い。最初はそのあまりのクズっぷりにかなりイライラさせられるかもしれないが、下手に年齢を重ねて挫折を繰り返した分、そう簡単に変わらないリアルさがここにはある。この前半のフラストレーションが後のカタルシスに繋がり、クソみたいな人生の中で培ってきた技術や、過去の栄光がそのままダイレクトに生きる意味に繋がってくるのは凄く良かった。息子役の少年の生意気盛りな演技もよく、家族の断絶と再生の物語は万人に受けるだろう。

旧世代型のスパーリング用ロボットなので打たれ強いという設定は素晴らしく、音声認識やシャドーボクシングによるモビルトレースなど、主人公機は詰め込んでいたわりに、対する敵のロボットのインパクトが全体的に薄かったのは難点である。特にラスボス機の、テクノロジーの最先端をいく学習機能などのシステム面がまるで描かれず、機体のマシンパワーのみで上回っていたのはやや引っかかるものを感じた。

しかしロッキーといい、単純な栄光や勝利よりも価値のあるものを常に求めるという心理はわからないでもないが、やはり若干ぬるい気もする。そんなことはどうでもよくなるぐらい、父と子のストーリーとしては完璧で感動的なのだが、バトル面が情緒的な部分でワリを食った感じが強く、もう少しバトルが見たかったいうのが本音である。それほどまでにロボットボクシングの表現が凄かった。幕引きもよく、蛇足のないシンプルなエンディング。親子で観れるなかなかの良作だと思う。
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