Yoshishun

あの夏、いちばん静かな海。のYoshishunのレビュー・感想・評価

4.0
北野映画は、常に"死"を匂わせる。
少し青みがかった画面、いわゆる「キタノブルー」の演出がよりその感覚を引き立てる。

本作は、北野武監督第3作目にして、音楽に初めて久石譲を起用、さらには武自身は出演せず監督・脚本と編集にも注力したという異色作。

廃棄物処理業務をする聾唖の男性・茂は、廃棄物にあったサーフボードを見つけ出し、ガールフレンドを連れてサーフィンを始める。彼はサーフィンに深くのめり込んでいき、その熱意は次第に周囲をも巻き込んでいく。そんななか、茂はサーフボード専門店の店長から、ある大会への参加を打診される。

前作、前々作がヤクザの登場するバイオレンス映画であったため、公開当時はそのギャップに驚かれた方もいらっしゃったことでしょう。しかし、武の愛するフランス映画を想起させる、独特な台詞回しや映像の長回しは本作の魅力です。まるでアドリブにも聞こえる日常会話にはユーモアもあり、ほのぼのとしている。しかしながら、主人公二人は聾唖という設定であるため、劇中で話すことはない。しかも手話すらもないのである。そんなサイレント映画にもみえる手法ですが、言葉やジェスチャーが無くとも、二人の感情の揺れが伝わるのが演出としても凄い。長回しについては、廃棄物処理の場面や浜辺へと向かう場面が印象的でした。そこに久石譲の音楽も相まって、若者の青春を鮮明に写し出されていました。

しかしながら、衝撃のラストが物語るように、常に張り詰められている死の感覚。茂の熱意の矛先は彼女ではなく、別の場所に変わってしまったのだと痛感させられ、青春の美しさと同時に、青春の痛さも表現されていました。

監督作のなかで最もキタノブルーが演出として機能しているといっても過言ではない、そんな作品でした。
なお、DVDパッケージ裏のあらすじはとんでもないネタバレがあるため、絶対に読まないように。
Yoshishun

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