バナバナ

カンゾー先生のバナバナのレビュー・感想・評価

カンゾー先生(1998年製作の映画)
4.2
太平洋戦争終盤の1945年4月~8月頃の、捕虜収容所がある岡山の離島を舞台にした物話。

カンゾー先生の“カンゾー”とは“肝臓”の事で、
主人公の町医者・赤城が、患者に必ず「あんた、肝臓炎じゃ」と肝臓病にしてしまうので、付いたあだ名である。

私は赤城先生が患者さんに「肝臓炎が移った」とやたらと言うので、
帝大の同窓会の場面までは、てっきりニセ医者の話だと思って観ていた。
ところが、彼は正真正銘の医者だったのである。

きっとカンゾー先生は、実家が町医者だったから東京から戻ってきて跡を継いだけれど、本当は臨床医より、研究肌の人だったのかもしれない。
でなければ、栄養失調で皆肝臓が弱っていたかもしれないが、当時だって他の病気もあるだろうに、と疑ってしまったw。
しかし、カンゾー先生の患者さんへの思いは本物である。
治療しようにも薬をどんどん制限されていた時代に、イチャモンを付けてくる軍医に堂々と言い返し、急患には駆け足で駆けつける。

真面目が取り柄のカンゾー先生の周りには、本来なら町の名士である筈なのに、モルヒネ中毒の外科医や、4人も奥さんを変えた生臭坊主など、戦争中にしては個性的な人が集まっている。

その中でも、19歳の麻生久美子演じる、村の淫売娘ソノ子が面白い。
彼女の家は貧しくて、小さな弟たちからも、
「姉ちゃん、お腹が空いたからインバイしてきてくれ」と言われる特殊な家。
村人からも蔑まれている。

私は本作が今村昌平監督作品だと知らなかった。
いつもは、今村作品は別にエロくする必要の無いところを無理やり淫靡な方向に持っていくのが、あまり好きでは無かったのだが、
今作にも際どいシーンはあるものの、ソノ子がインバイしても、相手に媚びもしなければ、自分を卑下もせず、
子供の様に真っ直ぐな純真さで物事に向かっていくので、エロさが後を引かず、それどころか全体的に爽やかに感じる事ができた。
麻生久美子が棒読みだけれど、ハキハキ台詞を言うので、反ってそれもソノ子らしく見れた。

当時はお医者さんであっても食糧難は同じなのに、軍人が集まる料亭では、酒や贅沢な料理が並ぶ。
カンゾー先生の様なくそ真面目な変わり者や、坊主や麻薬ジャンキーの外科医の様な不良中年たちが、時勢に流されずに思った事を言い、思いのままに行動するところが小気味良い作品だった。
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