イチロヲ

鉄輪(かなわ)のイチロヲのレビュー・感想・評価

鉄輪(かなわ)(1972年製作の映画)
3.5
若い娘(フラワー・メグ)との不倫に情熱を注いでいる中年男(観世栄夫)が、15年間付き添ってきた妻(乙羽信子)から苛烈な嫉妬心を向けられてしまう。能の同名謡曲をベースにしている、ATG謹製の実験映画。タイトルは「かなわ」と読む。

不倫相手と逢瀬を重ねる夫のところに、妻(の怨念)が無言電話の波状攻撃を与えてくる。電話のベル音によって夫の強迫観念が刺激されるというモチーフなのだが、電話線を抜かずにそのまま放置してしまうため、現場がマヌケなことになっている。

演出面では、ソフトフォーカスながらフラワー・メグのアンダーヘアをぼんやりと収めており、当時ではギリギリとなる映像表現を成功させている。夫に因縁をつけられたホテルマン(原田大二郎)が、ファイティング・ポーズを取るシーンも笑える。

全体的に「日本人が手掛けたヌーヴェルヴァーグ」という印象。乙羽信子にやらせたかったことをストレートに具現化している、いわば監督の趣味の世界。乙羽信子のサイケなPVとして楽しむことができる。
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