えそじま

生きものの記録のえそじまのレビュー・感想・評価

生きものの記録(1955年製作の映画)
4.2
「水爆がやべぇ!日本はダメだ」と一家総出のブラジル移住を独断するジジィ。何トチ狂ったこと言ってんだジジィと当然一家は猛反発するが、当時は前年公開の『ゴジラ(1954年)』でも示唆されているように、各国で併発する水爆実験の影響が現実的な恐怖として特に身近にあった時代。つまりジジィの突飛な決断も一概に狂信的と跳ね除けられない情勢だったわけだが、そんな中で遠い死の恐怖よりも身近な居心地を選ぶ一家と、発狂して本当に狂っていくジジィの対比が皮肉的に描かれている。

こういった類の人間が否応なしに陰謀論者(或いはよく分かんないけどなんか面倒くせぇやつ)なんて冷たく蔑まれるのは現代でも同じだが、一方で声の大きい者が世論を不必要に掻き乱しやすい時代にも混乱と犠牲が生まれるわけで。
結局全てを正しい方に導ける人間なんている訳もなくなんらかの形でどこかに過ちは起きるのだから、遠い不幸やある程度の不穏さに目を逸らしつつ今目の前にある身近な幸せをしみじみと感じながら盲目的に過ごす、これぐらいの冷たさが人間には丁度良いんだ…なんて諦念染みた感想を持ったりもした。

60歳のジジィを演じた三船敏郎は当時35歳、『七人の侍(1954年)』の公開翌年でバリバリの現役ハードボイルド漢な筈だが、どう見てもジジィにしか見えないのでやっぱり三船敏郎は凄いなと思いました。

ラスト無言すれ違いの対比ショットが印象深い。
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