秋日和

デスプルーフ in グラインドハウスの秋日和のレビュー・感想・評価

5.0
ゾーイ・ベルが片脚だけを車中に残して身を乗り出し、もう片方の脚でドアを蹴る。それを発車の合図として、ボロボロになった車は息を吹き返して走り出す。それまで複数の視線が絡み合いながら進んでいた映画は、一対一の関係性を決めた後、どんどんと透明になっていく。もはや望遠鏡で見つめる視線も、バーのカウンターで後ろを振り向くような視線も気にする必要はない。ただ一点だけに集中しながら突き進む。銃さえも存在しない(会話劇の中で銃という単語が出ると気になって仕方ないのは、いつそれを放つ瞬間に巡り合えるのか想像してしまうから)。なんて純化された空間なのだろうと思う。
複数の出来事をまとめあげていくのはタランティーノお得意の手法としても、ここまでも鮮やかに一本の線に収めた作品は他にない気がする。女性の後ろ姿を追うカメラが、やがて正面ばかりを映すようになり、放り出された脚がギロチンになる。アクション映画としての爽快さを生み出すために、そこまで周到に用意していたのか、ということばかり。車を捉えるカメラポジションのカッコよさに、いちいち大正解と言いたくなる。掛け値なしの傑作です。
秋日和

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