TAK44マグナム

ネメシスのTAK44マグナムのレビュー・感想・評価

ネメシス(1992年製作の映画)
3.7
グラサン野郎どもがバリバリ撃ち合うぜ!!


崖からただ落ちるカットでさえ、「とにかくカッコつけて落ちろ」と注文するものだから、みんなクルクル回りながら落ちたりしなくちゃならない。
そんなカッコマンな監督と言えばそう!
アルバート・ピュンじゃないですか!
ピュンっていう苗字からしてフットワークが軽そうなイメージだと昔から勝手に思っているんですが実際はどんな人だか全然知りません!
(初めて画像検索してみたら、サモ・ハン・キンポーみたいな人で驚き!)

そんなアルバート・ピュンが元キックボクシングのチャンピオンであるオリヴィエ・グラナーを主演に撮った、90年代前半を代表するスタイリッシュなSFアクション。


西暦2027年。世界のハイテク化はとどまる事を知らず、犯罪が増加の一途をたどっていた。
ロス市警のアレックスは女サイボーグをテロリストとして葬ると、謎の一団に追われる。
どうにか撃退はしたものの重症を負ったアレックスは、身体の機械化を更に進めて警察を去った。
その後、リオで麻薬の密売人に身をおとしていたアレックスはロス市警に無理やり引き戻され、かつての恋人が重要な機密を盗んだことを知らされる。
胸に爆弾を仕込まれたアレックスは、渋々ジャワへと向かう。
そこに元恋人のジャードが潜伏しているらしい。
しかし、アレックスを待っていたのは恐るべき陰謀と、過酷な運命であった。
最強のサイボーグ軍団に追われ、はたしてアレックスは世界を救えるのであろうか・・・?!


お話は安い「ターミネーター」。
面倒な過去やら未来やらの要素は捨てて、思いっきりガンファイトのみに絞った、「よく考えたら別にSFじゃなくてもよくね?」な映画です(汗)
でもいーんです!
なぜなら、監督がSFが好きだから!
サイボーグが大好きだから!
(ヴァンダム初期の主演作、タイトルもずばり「サイボーグ」もアルバート・ピュン作品)

主演俳優がキックボクシングのチャンプだった割に格闘アクションは少ないのですが、ソバットでチンピラを倒しまくるシーンもあります。
オリヴィエ・グラナーは身のこなしが素早く、アクション俳優として中々の逸材でしたね。
動きの一つ一つが格好いい。
ただ、主演としては少し華が足りないのが玉に瑕で、出演作品はそれなりにあるのに「ヴァンダムになれなかった男」のまま現在に至ります。

ガンアクションは最高に格好良く、ハンドガンだろうがマシンガンだろうがショットガンだろうがライフルだろうが、撃って撃って撃ちまくり、ドカンドカンと爆発しまくります!
土手から滑り落ちながら二丁拳銃をフルバーストしたり、崖から飛び降りながら撃ったり、腕をクロスさせて撃ったり、射撃という射撃をいちいち格好つけます!
特に有名なのが、敵の猛攻から逃れるために、床を丸く撃って破壊、それを繰り返して建物何階分も一瞬で落ちて移動する場面!
後に、「アンダーワールド」でもケイト・ベッキンセールが同じように床を撃ち抜いてパクってましたね。
でも、サイボーグじゃなかったら、あんなに落ちたら死ぬので、このアクション撮りたいがためにSF設定にしたんじゃないかと勘ぐりたくなります(苦笑)

そんなわけで、ロケーションが市街地からジャングルなど目まぐるしく変わったり、特異なガンアクションに関しては「センスがある」と、すこぶる評価されている映画でありますが、その他の要素はソコソコ、もしくはダメダメなのでした。
まず、単純な話なのに説明もないまま序盤でいきなりド派手な銃撃戦を長く見せてしまうのもあって、誰と誰が戦っているのか?等が若干わかりにくくなってしまっています。
アクションで惹きつけたいのは分かりますが、そこから本題に入るまでに主人公があっち行ったりこっち行ったりとフラフラしすぎ。

登場人物も無駄に多い。
大半はいつの間にか死んでいる輩なので、もっとタイトに絞っても良いかと。
途中で出てくるガラクタ婆さんの方が主要キャラより目立ってしまうほどです。
この婆さん、お話には全く関係ないのにいきなり登場、高圧的に絡んできたサイボーグを後ろから撃って破壊しちゃいます!
決め台詞は「これでおまえさんこそガラクタだよ!」
この婆さん最高なんですけれど、時間にして2分ぐらいしか出ていないのに、ちょい役のトーマス・ジェーンやジャッキー・アール・ヘイリーより印象に残るのも考えものじゃないのか(汗)

また、主人公が強いのか弱いのかよく分からないんですよね。
殺人テクニックでは右に出る者がいないと自分で言っちゃっているようなキャラクターなのですが、たしかに雑魚相手なら無双、でも
ピンチに陥るのも多すぎです。
数的不利だったり、不意をつかれたり、状況は様々ながら普通に何回殺されているのか分からんですよ(汗)
導入部からして既に瀕死ですからね。
まぁ、もしかしたら、サイボーグだから再生して復活!というパターンを繰り返して、「簡単には死なないタフな戦士」を強調したかったのかな?

この後シリーズ化され、それなりに評価された本作。
しかし、未だに日本ではDVD化もされておらず、半ば忘れ去られてしまっております。
しかし、「ターミネーター」の影響を色濃く受けながらも、主眼を「いかに格好良く銃を撃ち合うか」においたのはエポックメイキングだったのではないでしょうか(香港映画ならジョン・ウーという偉大な先人がいましたが)。
ビジュアル的にも、しつこいぐらいに登場人物たちが黒いサングラスをかけ、パリッとしたスーツやコート姿で様々な銃器をビシッと構えて大量の弾丸を撃ち込むスタイルは、まるで後の「マトリックス」。
特に敵サイボーグ軍団の連中は、その所作や佇まいからして間違いなく「マトリックス」のエージェントに影響を与えていると思います。
「マトリックス」は90年代の最後に作られ、ゼロ年代を代表するスタイリッシュアクションシリーズとなったわけですが、本作は80年代の要素を汲み取って進化させ、ゼロ年代への橋渡しとなった重要な作品と言えるでしょう。

・・・とか何とか言いながら、ビデオがレンタルされた当時借りて観た時は大して面白いとも思えず、「ターミネーター」のパクリぐらいにしか覚えていなかったのですけれど、25年ぶりぐらいに鑑賞してみるとアクション的に見応えがあって満足できました。
(ちなみに日本公開版はラストが変更されているらしいです)


アルバート・ピュンは、この後もサイボーグが出てくるSFアクションを中心に多彩なローバジェットのB級映画を量産しますが、出来の悪い脚本で鳴かず飛ばずのB級スターを再利用する職人的監督に落ち着いてしまった感があって残念無念。
そういえば、昔レンタルして観たけれど記憶の中に封印するほど酷かった「キャプテンアメリカ/帝国の野望」の監督もアルバート・ピュンでした!
いまとなっては、もはやMCUに彼が入りこむ余地は微塵にもないのが切ないですね・・・(涙)


レンタルビデオ、某動画サイトにて