四次元の王者

キングダム・オブ・ヘブンの四次元の王者のレビュー・感想・評価

キングダム・オブ・ヘブン(2005年製作の映画)
4.4
ディレクターズカット、予想以上に良かった。

作品を観る前は、おそらくはキリスト教視点のやや独善的なストーリーだろうと思っていたら、宗教戦争的な部分についてはイスラム側の立場も予想外に公平に描いている。

ストーリーは、当時の辺境の地・フランスの片田舎で鍛冶仕事をしていたバリアンという男の、自殺した妻の埋葬シーンから始まる。

バリアンはエルサレムのイベリン領収だった人物と血縁があったことから、あのボードワン4世が統治していたエルサレム王国に赴く。
第一回十字軍以降、いくつか創られた十字軍国家のうち宗教面では最も重要な王国だ。

ボードワン4世は幼い頃、ライ病罹患が発覚するが、頭脳明晰で人望も厚く、16歳の時、圧倒的な兵力を持つサラディンの軍勢に600騎で突撃し勝利を収めた人物。
しかしこの作品で描かれているのは死の前後の姿。

その妹シビーユと、主人公バリアンの許されぬロマンスが描かれるのだが、彼女は形ばかりではあっても、その後エルサレム王になったギー・ド・ルジャニンの妻なのだ。

圧巻は壮大なエルサレムの攻防シーンの後。
両軍の死体の山を背景にしたバリアンと、サラディンの会見。
「争いのもととなるエルサレムを焼き払う」
「良い考えかも知れないな」
……たぶん史実も、イスラム側の考えはこうだったと思う。
一方的に戦闘を仕掛けるのは史実でも、この作品でも十字軍側なのだ。

サラディンについては信頼の置ける多数の歴史書で、殺戮を避け、最大限他の宗教を尊重する人望のある王だったことが記されている。
結局この時期の十字軍国家というのは、この地に居付いた人たちの意見、西ヨーロッパから来た十字軍の意見の葛藤のなかでドタバタしていた。

そしてこの作品、キリスト教徒(と思われる)リドリー・スコット監督がメガホンを採ったわけだが、予想外にウィーアーザワールト的な視点で創られているのが凄いと思った。
なんだかんだ言って、欧米の人たちの道徳観、捨てたものではない。