ウシュアイア

グレン・グールド 天才ピアニストの愛と孤独のウシュアイアのレビュー・感想・評価

4.5
<ドキュメンタリー映画特集④>
2011年11月03日鑑賞

50歳でこの世を去ったカナダの天才ピアニスト・グレン・グールドの内面に迫るドキュメンタリー。

クラシック音楽愛好家の初中級者になれば、誰もが知っている稀代のピアニスト・グールド。特に、バッハのピアノはグールドを聴け、といわれており,『ゴルドベルク変奏曲』はレコード史上、いや音楽史上に刻まれる、名盤中の名盤として名高い。また、グルードの平均律クラヴィーアの録音は、惑星探査機ボイジャーに積まれている。

と、誰でも知っているような蘊蓄はさておき、グルードといえば、数々の奇行の「伝説」が天才ぶりの表れとして伝えられているが、この映画はグールドがいかにまともであったか、ということを伝えている点が興味深い。

まず、あの極端に低い椅子に座って演奏するスタイルも、師匠の教えを突き詰めた結果であることがわかる。ピアノを習ったことがある人ならば分かると思うが、ピアノを弾く時には、うでを浮かせて、指を立てるようにして、真上から鍵盤を押すことで、大きな音を出せるようになるのだが、グールドの師匠は指を伸ばし気味にして、掌を鍵盤に対して水平に保つことで、鍵盤を押した反作用で、指が元の位置に戻ることを利用して、粒の細かい音を出させる、という弾き方を教えたのだという。

また、1932年~1982年の生涯ということで、本人が映っている映像も数多く残っており、ピアノを弾きながら、この曲はこう弾くとこうなるから・・・という具合に、自分の演奏法を説得力のある言い回しで語っている映像もあり、ものすごく「考えて」演奏していることがわかる。

さらに、確かに芸術家としてのこだわりから、一般人に理解しがたい行動を取っていたのは確かのようであるが、それをマスコミが誇張しておもしろおかしく書き立てることも、レコード会社がレコードを売るための戦略に使っていることを承知の上で、放置していたようである。

グールドの奇行は伝えられているほどでもないようである。

また、この作品ではグールドの女性関係についても触れられており、交際していた3人の女性(とその家族)のインタビューが盛り込まれている。

奇行や生涯独身であることから、様々な憶測がなされているが、諸事情により結婚に至らなかっただけで女性関係はむしろ真面目な恋が多かったようである。

とにかく、見どころ満載のドキュメンタリ。クラシック音楽に明るい方は必見。
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