むっしゅたいやき

赤い風船のむっしゅたいやきのレビュー・感想・評価

赤い風船(1956年製作の映画)
4.5
鮮やかで美しく、また幾様にも解釈の出来る豊かな寓話である。
原題『Le Ballon Rouge』。
監督はアルベール・ラモリス。
なお、本作の主人公パスカルは彼の実子である。

寓話の良さは、第一に自由な想像を許す点に在ろう。
テーマが決まっている作品はどうしてもその幅の中で主題を深く掘り下げ、考えさせる構成となるが、寓話は鑑賞者の想像に垣根を設けず、自由な空想を許し、またそれを延ばす。

本作に於いても風船へ何を仮託していると見るかは劇中一切触れられておらず、鑑賞者個々人へ委ねられる。
単に『風船=友人』としての友情物語だとしても良いし、『家族』、或いは抽象的に『幸福』、『恋心』、『正義』、『価値観』…、何でも良い。
作品から得られる一石が鑑賞者の心水へ投じられ、波紋が起これば其れが正なのである。

本作は1950年代の作品であるが、仏国の瀟洒な街並み、濡れた石畳に映える鮮烈な赤色の風船が素晴らしく詩情を醸している。
それは何処かノスタルジックで、過ぎ去りし幼き日々を思わせ、我々に切なさを催させる。

自身が風船へ何を仮託したのかは伏せるが、いつか子を為し、その幼い時分に見せて遣りたい名編である。
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