スズランテープ

赤い風船のスズランテープのレビュー・感想・評価

赤い風船(1956年製作の映画)
4.7
何という素晴らしさ。
まずファーストショット。一瞬で胸を撃ち抜かれた。石畳の街、霧、少年、見事な組み合わせだった。

今作は実に不思議な御伽噺のようでありながらどこか愛着があり現実を写していたと思う。

まずタイトルにもなっている赤い風船がかなり象徴的に描写されている。フランスの日常生活の中にふわりと浮かぶ赤い風船のイレギュラーさによって観客の印象は強くなる。赤い風船は少年時代の大切な思い出や大切な記憶の象徴なのであろう。誰もが持ち合わせている普遍的な記憶に語りかけてくるために自然と琴線に触れるものがあるのだ。さらに今作はとにかく可愛い。出てくる子供も風船も可愛すぎるのでなんともホッコリとした気持ちなる・・・と思いきや。

子供時代の残酷性も惜しみなく描写されている。『白い馬』でもそうだったが人間の根本にある嗜虐的な趣向を描きつつも希望を持たさせる物語にはなんともグッとさせられる。

大切な記憶やものが世の中の摂理や不条理さ、人間の醜さによって失われても、世の中には小さな希望が無数に転がっている。性善説とは少し違うが人間の可能性を広げるような作品は大好きなので個人的にはここ最近でトップクラスに好きな作品だった。

大袈裟ではなく人生で一番素敵な映画体験だった。
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