あなぐらむ

リボルバーのあなぐらむのレビュー・感想・評価

リボルバー(1988年製作の映画)
4.5
ロッポニカ新宿ラストランで鑑賞。VHSでも観たし、今でもCSでやるとつい観てしまう。

ロッポニカ最後の番組は、荒井晴彦と藤田敏八が佐藤正午の原作を得て描く、ダメな大人たちの群像劇ロードムービー。
奪われた拳銃という素材はさしてサスペンスを生むわけでもなく、これは弾倉が回転していくような場面転換の暗喩であり、恐らく(最近また流行しているが)ビートルズの「リボルバー」にかかっているのだろう。
鹿児島から北海道へ移動していく人々の、それぞれの喉の「小骨」の取れていく様がが描かれていく。沢田研二が主演扱いになっているが彼は言ってみれば我々の代表のようなもので、実質の主役は尾美としのりと柄本明の競輪コンビ。競輪映画には実は傑作が多く、これは日活作品のタイトルにもあるが「人間に賭けるな」だから。劇中柄本も台詞で語るが、人が人に賭ける公営ギャンブルは競輪だけなのである。馬やボートやバイクといった不測の要素の無い賭博。それは人間の人生の縮図であり、その彷徨こそが人の生き様なのだ。
荒井晴彦の筆が円熟味を増した時期で、軽妙でかつヒリヒリする筆致が観ている側にぐいぐい何かを突き立てて行く。かち、かちっと要素が繋がって行く作劇は見事だ。当時は嫌いだったけど。

佐倉しおり、南條玲子、手塚理美といったヒロインがみな良く、役者のアンサンブルを流麗な藤沢順一撮影が捉えていく。この時期の藤沢順一撮影作品は本当に充実しているので、撮影縛りで観てみて欲しい。
日活撮影所の粋が詰まったただただ、巧い映画。

ラスト、ボブ・マーリーの「アイ・ショット・ザ・シェリフ」(カバーだけど)がジュリーを撃つ、その「ズレ」と苦い笑みに、青春を過ぎても生きて行かざるを得ない男の、女の哀切が浮かび上がる。ほんと、ジュリーのこのくたびれた存在感と色気はなんだ。スターなのに。

結果的に藤田敏八は、「八月の濡れた砂」で日活映画に引導を渡し、ロッポニカにも終止符を打たせた。彼はいつだって遅れてきた青春の終わりを謳う作家なのだ。「首都高速トライアル」の事は忘れてください。あれはあれで、後のビデオシネマの素地を作った貴重な作品ではあるが。