槙

ニワトリはハダシだの槙のレビュー・感想・評価

ニワトリはハダシだ(2003年製作の映画)
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森崎東作品にしては勢い弱めだし、知的障害児を神聖視する感じの大人が出てきたりでこれはちょっと合わないかなぁ……と思ったけど終盤のもっていき方がすごくてふつうに号泣した……「おてんとさま」が「日の丸」に変わるときに転じる価値観の危うさ。

知的障害児であるサムをチチ(原田芳雄)とハハ(倍賞美津子)は必死に育てていて、それだけだと親と子の愛情みたいな安易なテーマになってしまいそうなんだけど、ハハが在日コリアンという設定がある。ハハには「自分の故郷は生まれた場所。韓国でも日本でもなく、(生きることを選んだ)この町と海という考え・価値観みたいなものがあり、それが自分や他者をどう生かすか、というところに繋がってきているように見えた。

ここ数年の邦画で「特別でない私が特別でない私をどう受け入れて、他者に尊重できるか」みたいなことが主眼になっている作品をよく見かけたし、「特別でない」という感覚ももちろん大切だと思う。ただ一方で、それを尊重しようとするあまり無効化、透明化されてしまう人たちや生き方もあるように思う。森崎東はそういう人たちの存在を掬い上げていて(検察・警察、ヤクザ、いわゆる“底辺”市民、三つ巴のラストシーンのカオスがこの作品でいうとそれを象徴しているような絵面だった)、それが観客であるまったく境遇の違うわたしをも照らしてくれるように思えるのだ。
森崎東作品に出てる人たちはみんな傷つけ合うし実際傷ついてるけど、同時にそのありようが“誰も傷つかない世界”の入口ではないかとさえ思ってしまう。
槙