よーだ育休準備中

紀元前1万年のよーだ育休準備中のレビュー・感想・評価

紀元前1万年(2008年製作の映画)
2.0
狩猟民族であるヤガル族が暮らす集落に、獲物である獣の王マナクが寄り付かなくなった。部族が飢えに苦しむ中、村の巫母は長い祈祷の末に神託を受ける。

ー最後の狩りの時《四本足の悪魔》がやってくる。しかし恐れることはない。最後の狩りで村に英雄が生まれ《青い目の子供》と結ばれたのち、村に二度と飢えることのない新しい暮らしをもたらすであろう。


◆金額に見合った美しい映像

ハリウッドの破壊王Roland Emerichが巨額を投じて《紀元前一万年》つまり更新世後期の地球を映像化した作品。大胆な爆破シーンや崩壊シーンはありませんでしたが、氷河期に人類の祖先たちと共存していた動物たちのクオリティは非常に高かったです。

冒頭でのヤガル族(おそらくネアンデルタール人)が集団で獣の王マナク(ケナガマンモス)に襲い掛かるシーン。巨大なマンモスの群れに忍び寄って、部族のハンターたちがワーッ!っと飛び掛かる映像は迫力がありました。網をかけるトラップは物語を展開させる上で必要だったのかもしれませんが、ここは脚色が過ぎる気もしました。氷河期の終わりが近付き、ケナガマンモスの絶滅が迫る(絶滅の原因には諸説ありますが)時代の転換期に則した物語の切り出し方は良かったと思います。

ヨーロッパから徐々に南下しているのであろうプロットに従って、雪山、森林地帯、サバンナ、砂漠と切り替わるシーンも美しい。この間に登場する古代生物がフォラスラコスとスミロドンだけというのは味気なかったですが。完成度が高かったので、モブ的な起用でいいから古代生物をがんがん背景に貼り付けて出してほしかった。紀元前1万年の地球を旅している感じをもっと味わいたかった。


◆金額に見合わない残念なプロット

村の巫母が予言した通り《四本足の悪魔》がやってきて村人を掻っ攫ってしまい、難を逃れた主人公のD'Leh(Steven Strait)が仲間と共にヒロインのEvolet(Carmilla Belle)を助けるべく旅に出るー。というのが物語の大筋。今作はSF作品であると認識していましたが、《サイエンス・フィクション》ではなく《すっごく⭐︎ファンタジー》だったんですね。

途中で登場したホモ・サピエンスと思しき部族(牙!牙!とか言って壁画書いてた人たち)とネアンデルタール人が接触する展開に古代史マニアはこっそり歓喜しましたが、スミロドンの使い方には物申したい。氷河期を代表する肉食獣なのに『牙と話した!』っていう主人公に箔をつけるだけの係になってるのは大変勿体なかった。ちょっとくらいむしゃむしゃしちゃえよ。(暴言)


◆致命的な時代錯誤(ネタバレあり)

ホモ・ネアンデルタレンシスとホモ・サピエンスは生きていた時代が重なっており、実際に種族を超えた交流があったとされている事はよくわかります。氷河期末期でケナガマンモスが減り、主人公たちの暮らす集落が飢饉に陥る展開もよく練られていたと思います。時代考証がしっかりなされていたのはそこまで。あとはフィクション作品であることを盾にノリと勢いで押し切ろうという魂胆が透けて見えました。

巫母の予言した《四本足の悪魔》とは騎馬民族の事であり、彼らが各所の集落を襲って人攫いをしていたのは《ピラミッド建設に従事させる奴隷を集める為》でした。何ここ時空が歪んでる。

スキタイや古代エジプトを描きたいなら更新世後期ではなくて古代オリエントの世界を舞台にした作品として制作したらよかったのに。『紀元前1万年』は邦題詐欺ではなくて、原題もしっかり『10,000 BC』ってなっているのに。氷河期感のあるシーンって結局マンモス狩くらいだったような気がしてしまいます。大砂漠に『氷河期とオリエント世界を繋ぐワームホール』が出現していたなんてトンデモ裏設定でもあったのかな。今作を製作しようとした意図が本当にわかりません。