怨念大納言

ドラえもん のび太と鉄人兵団の怨念大納言のネタバレレビュー・内容・結末

4.1

このレビューはネタバレを含みます

記念の600レビュー!
という事で子供の頃にみた思い出のドラえもん映画で。

小さい頃、家には子供向けアニメのビデオが沢山あって、ラインナップは「ドラえもんシリーズ」「ディズニー」「トムとジェリーシリーズ」「チキチキマシン猛レース」。
特にドラえもんとトムとジェリーはほぼコンプリートに近いラインナップだった為、旧作のドラえもんシリーズは全部見ております。

その中で、恐竜と本作が特に好きで、どちらか選べと言われれば本作が私のNo.1ドラえもんとなります!

ロボットが、ロボット自身の人権と平等の為に人間を奴隷にしようとする。
他ドラえもん作品で描かれる環境や戦争も非常に重いテーマですが、これ程までに哲学的なテーマはないでしょう。

かつて黒人を、部落を、ユダヤ人を、移民を、女性を、障がい者を、好き放題に差別した人類。
豚を殺すがイルカは守り、牛肉を食べながらパンダを可愛がる人類。

これを、単に「弱肉強食」「勝てば官軍」と片付けてはいけない。

今や、AIによって人類以上の知能が誕生しようとしている。
羽生善治より将棋が強く、ピカソより絵が上手く、三島由紀夫より美しい文章を書いて、ビートルズ以上のロックを作り、エジソン以上のアイデアマンで、アインシュタインもオイラーも敵わない研究が出来て、松下幸之助よりも商売上手で、ウォールトディズニーよりもエンターテイナー。
そんな冗談じみた超頭脳が、人間の手で作られようとしている。

その時、人類が豚にしている仕打ちをAIから受ける事を甘んじるべきだろうか?

この映画、リルルによって鉄人達に人間並みの知能があると分かる前、ザンタクロスには恐ろしい仕打ちをする。
脳を改造し、問答無用で味方に引き込む訳です。
コレ、立場が逆なら放送出来るんですかね?

リメイク版のリルルは、最初からスパイと分かっている訳ですけど、旧作はそれがわからず、

ロボット「ごとき」が人間を奴隷にするだなんて不届きな!

なんて事を当然思う訳ですよ。
鉄人兵団を差別的で理不尽と思う前に、こちらの差別心を顕にさせる恐ろしい演出。
人間「ごとき」なら奴隷にしても構わない、というロボットの傲慢がそのまま私に帰ってくる。

だからこそ、ロボットと人間との間で悩むリルルに尊い気高さを感じるし、揺れるリルルを信じて傷付きながらも友達であり続けようとするしずかちゃんが美しい。

この友情が、唯一の救いなんですよね。

ロボットと人間の立場を逆転させた時、この映画の結末はゾッとする程恐ろしい。

ロボットにはそもそも争いの因子がプログラムされており、止めるにはプログラムの書き換えを行わねばならない。
そして恐ろしい事に、その冗談じみた作戦はタイムマシンによって実行され、引き金はロボット自身がひく。

もし、人間の遺伝子に争いの本能が秘められているとしたら、この映画の結論は「一度滅びてゼロからやり直す」他に平和への道はないという事になる。

こんな、救いのない結論があるだろうか?
だからこそ、リルルとしずかちゃんが救いなんです。

種を超え、個人を超え、友情の為に種毎滅びるリルル。
せめて、天使のようなロボットに生まれ変わる事を願うリルルに、しずかちゃんは既に天使だと告げる。

ロボットにも、人間にも破壊の遺伝子が存在する。
そして、存在したままでリルルとしずかちゃんの友情は成立して、リルルは破壊の遺伝子を残したままで天使になる。

人間に備わった友情や愛和の遺伝子が、破壊の遺伝子に勝利してくれるような、微かな希望を感じさせながら、リルルは消えてしずかちゃんが泣く。
だから、大人も泣ける。
大袈裟かもしれませんが、人間である事を許された気分になるんですよね。

子供向けですが子供だましでない、私の思うドラえもんの最高傑作です。
怨念大納言

怨念大納言