ぺむぺる

ドラえもん のび太と鉄人兵団のぺむぺるのレビュー・感想・評価

5.0
ドラ映画第7作。スリリングな冒険と奥深い人間ドラマという2つの要素が、子ども向け映画の範疇を逸脱することなく見事に融合した、シリーズ全体でもベストのひとつに数えられる傑作。ただし、物語のテーマと「ドラえもん」の相容れなさに、どこかもどかしさも残る作品である。

冒頭、“どこからともなくのび太の前に現れるロボット部品”の描写が素晴らしい。巨大ロボットを手に入れることを夢見たアホな少年にとって、これほど期待に胸の高鳴る展開はないだろう。いきなり完全体が現れるのではなく、これは足、これは腕といった具合に徐々にパーツが集まることで、少年の夢とともに観客の不安も膨らむ。その一見希望に満ちた、それでいて不気味さも十分に残したヒタヒタと忍び寄る不穏が、主人公の日常に光と影を落としていく様は最高にスリリングである。

このように、今回の冒険は異世界での出来事ではなく、日常の延長線上にある。その日常が「ドラえもん」というギャグ世界であればこそ、SF侵略モノのジワジワくる恐怖はより一層高まるのだ。本作では、日常と非日常が紙一重であると同様に、〈夢と冒険の世界〉も一瞬にして〈憂慮と交戦の世界〉に変わることが示唆されている。のび太が組み立てた「夢のロボット」が、ボタン一つで大量破壊兵器としての顔を見せる場面の衝撃といったら。「魔界大冒険」が子どもたちのホラー入門であるならば、本作は子どもたちのスリラー入門として最適の作品といえるだろう。

そんな本作の魅力を一身に体現するのが、葛藤するゲストキャラ、リルルの存在である。外見はかわいらしい少女の姿をしているが、その正体は宇宙の彼方で地球侵略をもくろむロボット文明により送り込まれた工作兵。当初は侵略者、あるいはロボット文明の一員としての冷酷非情な面しか見せない彼女が、のび太たちとの交流を通して徐々に心情を変化させていく。彼女の揺れ動きこそ本作の要であり、見どころだ。鉄人兵団の侵略が進み、ついにのび太たちとの間に戦いの火蓋が切られたとき、その結末を優しく包み込む彼女の選択と決断は、到底涙なしに見られるものではない。

本作は〈他者との共存〉という大いなるテーマについて、その難しさと素晴らしさを真っ向から描いた作品である。当然その解決には痛みを伴うが、だからこそ訪れる感動もひとしお。本作においてこの「他者」とは、ロボット文明社会メカトピアの面々なのだが、ここに個人的には「ドラえもん」との相容れなさを感じてしまう。

それがもっとも顕著に現れるのは、前述の感動的でありながらも、やや乱暴に映る事態の収拾である。たしかにその「痛み」と「優しさ」は心に残るものがあるが、その根底には疑いようもなく“ロボットは人間によって作られたもの(だから作り変えてもよい)”という思想が流れている。それは「ドラえもん」の世界であればこそ、容認しがたいものに思えるのだ。

のび太(人間)とドラえもん(機械)の友情が自明の世界において、一般的に考えられている人間と機械の支配/被支配の関係性は、必ずしも当然のものではない。ともに魂や心ある存在として対等の関わり合いを持つことができるはずだというのは、本作以前より観客に刷り込まれてきた、ほとんど「常識」といってよい事柄である。その常識に鑑みれば、あの解決はあまりに心ない。

これが「ドラえもん」ではなく、たとえば「ターミネーター」の世界であれば、(作品のトーンの違いなど違和感は多々あれど)これほど居心地の悪い思いをしないですんだだろう。つまり、〈人間と機械の関係〉を考えさせる作品において、すでに機械として人間と確固たる関係性を築いてきたドラえもんは、扱いづらい厄介者になってしまっているのである。

その証拠に、徹頭徹尾ドラえもんは〈人間vs機械〉の構図に関わらない。リルルと交流を図るのは主にしずかちゃんであるし、人間側のロボットとしてコメディリリーフを務めるのはスネ夫のロボット、ミクロスである。ドラえもんの活躍は、あくまで〈地球vs侵略者〉の中に終始しており、自らの属性をまったく理解していない。そればかりか、とあるロボットに「ロボトミー手術」を行う場面などは、ドラえもんもロボットであることを思えばこそ、鬼畜の所業と呼んで差し支えないほどのまがまがしさまである。本作において「機械は機械でしかない」割り切り方を一番に身につけているのは、もしかしたらドラえもんなのかもしれない。

ともあれ、心を持たない絶対の他者「ロボット」との優しい共存を説いてくれたのは、ほかならぬ「ドラえもん」であるわけで、そうして高められた倫理観が本作を批判しうるのは、製作者にとってうれしい誤算ともいえよう。また、こうした批判も含めて語り甲斐のある作品というのは、それだけで名作と呼べるのだろうと、個人的には思っている。
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