しんご

ロッキー・ザ・ファイナルのしんごのレビュー・感想・評価

ロッキー・ザ・ファイナル(2006年製作の映画)
3.8
個人的には好きでしたが「ロッキー5」(90)は興行的にも批判的にも失敗作と見なされていた。それから16年後に本作の製作が発表された時、世間はスタローンに冷ややかだったのを今でも覚えている。スティーブン・セガールが彼に同情するコメントがTVで流れ、所謂ファンのためのお祭り映画になるだろうなと自分も思っていた。

そんな下馬評と自分の思惑を一蹴......いや、ここで使うなら「一殴」した佳作。ここからスタローンは燻し銀の演技派として躍進し、スピンオフにあたる「クリード」(15)ではゴールデングローブ賞を受賞。さらには、同じ年のアカデミー賞助演男優賞にもノミノートされた。

「ファイターの魂」が燻り続けるのとは裏腹に肉体は衰え息子の上司から「老兵同士仲良くやりましょう」と言われ苦笑するロッキー。かつてアポロ、グラバー、ドラゴをマットに沈めたあの精悍な若者の姿はそこにはない。この彼の行き場なき悶々とした佇まいをスタローンが見事に表現。「60過ぎても世界最強になりたい」という胡散臭い承認欲求ではなく、下町の小さなリングでもいいからボクサーとしての自分を感じたいロッキーのささやかな願いが胸に迫る。

そんなロッキーに現役チャンプからのエキシビションマッチが申し込まれるシーンからストーリーは急展開。映画らしい展開といえばそれまでだがそれがロッキーだし、観客もやはり大舞台で戦う彼を待望しているんだよね。

戦いに臨むロッキーを批判するロバートとの口論シーンは本作のベストではないだろうか。偉大なるフィラデルフィアのヒーローの影で霞むと父親を糾弾するロバートに「人生より重いパンチはない」と切り出し、「お前は卑怯者じゃない!俺の息子だ!」と激励するロッキーの表情で涙腺が完全に崩壊。数々の職を転々とし預金108ドルの極貧時代に「ロッキー」の脚本を書き上げたスタローンだからこそこのセリフが刺さる。

息子との確執を乗り越えたロッキーの最後の死闘はきっと観客全員の記憶に残るものではないだろうか。化物じみたタフネスに「イカれたジジイだぜ」と驚嘆するメイソンに「お前もそうなる」と返すロッキーのセリフでまた涙。
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