Mikiyoshi1986

ユリシーズの瞳のMikiyoshi1986のレビュー・感想・評価

ユリシーズの瞳(1995年製作の映画)
4.2
5月13日は名優ハーヴェイ・カイテル様の78歳のお誕生日。
おめでとうございます!

ギリシャ映画の名匠テオ・アンゲロプロス監督が手掛けた「国境三部作」の三作目に当たる「ユリシーズの瞳」

バルカン半島最古の映像作家マナキス兄弟。
彼らが20世紀初頭に遺した幻のフィルム三巻を探し求め、故郷ギリシャに舞い戻ったアメリカの映画監督をカイテルが演じます。

ギリシャから国境を次々に越え、情勢不安な東欧諸国を巡る過酷な旅路。

その旅を通し、マナキス兄弟の軌跡、フィルムが辿った20世紀という激動の時代、主人公の遠い思い出、主人公と心を通わせる(同じ)女性たち、更にはバルカン半島の戦争の記憶が螺旋のように連なり、
時間と空間と幻想の枠を無効化した追体験ストーリーを紡ぎ上げます。

それはまるで主人公が探し求める、ホイールに巻かれた一本の長いフィルムのようでもあり、
冗長なる"戦争の世紀"を遡行しながら、苦痛と悲壮を伴う「内面への旅」へと繋がってゆくのです。

バルカン半島は20世紀に入ってからバルカン戦争、第一次、第二次世界大戦を経験し、
世界が終戦を迎えてもなお、東西冷戦の火種や民族対立、イデオロギーの変遷によって内乱・紛争が絶えることはありませんでした。
実に丸一世紀もの間、不遇の時代を受け入れ、世紀末を目前しても未だ過ちと共に歩みを続ける人々。

主人公が探し求めるフィルムには、一体何が映っているのか。
失われたはずの"まなざし"gazeは、我々に一体何を訴えかけるのか。

濃霧の中で交響曲楽団が演奏に興じ、廃墟では若者が「ロミオとジュリエット」を演じ、広場ではダンスを楽しむ民衆。
戦乱の状況下でも娯楽・芸術への傾倒を忘れぬ人々の安息がとてつもなく美しい。

あらゆる作品で度々全裸を披露してくれるカイテル様ですが、本作でもその凛々しい肉体を拝むことができるのもひとつの見所です。
Mikiyoshi1986

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