Inagaquilala

フィツカラルドのInagaquilalaのレビュー・感想・評価

フィツカラルド(1982年製作の映画)
4.2
それにしても、この作品の、アマゾン川を遡上してきた客船が陸に上がり山を越えていくシーンは、いま観ても凄い。封切り時にスクリーンで目にして度肝を抜かれたが、年を経てもその驚きは変わらない。いまほど特殊撮影が発達していない80年代の初頭、ほとんど実写でこのシーンを撮っているはずなのだが、その迫力はとにかく圧倒的だ。映画はスペクタクルだということを、あらためて感じさせてくれる名シーンだ。

客船が山を越えるという、このシーンを観るだけでも作品観賞の価値はあるが、南米ペルーのジャングルにオペラハウスを建てようとする主人公を演じるクラウス・キンスキーの演技もみどころのひとつだ。当初、この役はジャック・ニコルソンが演じることになっていたが(これは観てみたかった)、病気で出演できず、ウォーレン・オーツに交替。ウォーレン・オーツもジャングルでの過酷な撮影に耐えられず降板、その後を受けた俳優も赤痢で倒れて、結局、同じヴェルナー・ヘルツォーク監督の「アギーレ 神の怒り」で主演したクラウス・キンスキーに白羽の箭が立てられ、撮り直したといういわくつきの作品。結果的にはこの起用が成功している。狂気の夢にとりつかれた男をクラウス・キンスキーが自慢の金髪を振り乱して見事に演じている。

アマゾン奥地のジャングルのなかを、カルーソーのオペラの歌声を流しながら、船で川を遡上するシーンも素晴らしい。ジャングルにオペラが響き渡り、これが意外にマッチする。また船上で繰り広げられるオペラコンサートのシーンも印象に残るシーンだ。20世紀初頭、アマゾン流域はゴムの木で一攫千金を狙うヨーロッパの人間であふれていた。とくにマナウスは世界でも指折りの栄えた都市で、立派なオペラハウスも建てられた。その時代の熱気のなかで自らの夢を実現しようとする男の狂気と情熱。それらが客船の山越えのシーンに象徴されていて、えも言われぬ感動を呼ぶ。82年の第35回カンヌ国際映画祭で監督賞を受賞したヴェルナー・ヘルツォーク畢生の作品。
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