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モナリザのninjiroのレビュー・感想・評価

モナリザ(1986年製作の映画)
3.7
Dark Streets of London
世知辛い世に咲く一輪の人情男花

ナット・キング・コール「MONA LISA」の美しい旋律と温かい歌声で幕を明ける、ロンドンの下町、底辺を生きる人々の物語。

ムショ明けの冴えない風体の小男が、長く離れた妻と娘の暮らす家のドアを叩く。

冒頭5分で手早く男の性格と置かれた背景を紹介するオープニング。
この無駄の無さが、本作全体のソリッドな造りを象徴する。

言葉を替えれば、本作は地味な小品でもある。

全うな家族生活からは身を引き、かつて身を置いたやくざな世界に戻り生きざるを得ない男の哀しみ。
日の当たる社会の競争についていけるほどの知恵も持たず、礼儀も作法もない粗野なチンピラ。
気付いたら、他に選べるものは既に何も無かった。
男が拾ったシノギは、美しき高級コールガール・シモーヌの運転手、ポン引きである。
出来る限りの誠実な仕事をしようと努める男。
徐々に距離を縮めるようにみえる二人の心、そんな時、とある理由から男は街を蝕む闇に自ら潜入することとなるが・・・。

映画的な、作られたような世界観はごく控えめに、寧ろ見過ごせない程に鼻息荒く主張し、あらゆるシーンに常に見切れるその背景は、けばけばしくもドス黒く汚れた暗黒街の営みや、ドロドロとした人間の醜さ・業の深さ。

どこにでもありそうな話を、愚直なまでにストレートに描くオーソドックスな演出に絡むボブ・ホスキンスの、その小さな身体に男気と哀愁をぎっしり満載した一世一代の名演。

50年代当時のハリウッドでは異色であった冴えない中年男の切ないラブストーリーの先駆け「マーティ」で、かのアーネスト・ボーグナインが主演し見事にオスカーを得たが、本作でもボブ・ホスキンスがその熱演により、カンヌをはじめ様々な賞を受賞した。

容姿云々ばかりに殊更クローズアップするのは若干気が引けるが、50年代ハリウッドの美男美女ばかりのラブロマンス期、80年代の「ヤングスター」(笑)だらけの浮かれた青春ドラマ乱発期において、どちらかとも言わずとも見るからに容姿に問題を抱える男の心に寄り添うように、ありのままを描いた両作は、それぞれの時代にあって際立ってリアルで、観る人の心を揺さぶる。

ラスト近く、ホスキンスの悲痛な叫びが深く胸に突き刺さる。

ウキウキすることも、キラキラすることもない。
しかしこれは、間違いない。
「ラブ・ストーリー」だ。

R.I.P. Bob Hoskins(1942-2014)
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