BOB

ハード・ボイルド/新・男たちの挽歌のBOBのレビュー・感想・評価

4.0
チョウ・ユンファ×トニー・レオン。ジョン・ウー監督のハリウッド進出前最後の香港ノワール。

"I'm a cop."

ジョン・ウー監督の香港時代の集大成的超大作。ジョン・ウー映画史上最大の火薬量と、現在も映画史上最高の銃撃戦死者数304を誇る。個人的には『狼/俺たちの挽歌・最終章』と並ぶ、ジョン・ウー監督の最高傑作だと思っている。

香港時代のジョン・ウー映画の好きな所は、ド派手なガンフーアクション映画ではありながら、"人を殺す"ということに真剣に向き合ったヴァイオレンス映画でもあること。深作欣二作品やサム・ペキンパー作品を想わせる戦争映画のエッセンスが随所に伺える。『仁義なき戦い』みたく殺す人間/殺される人間双方の狂気じみた剥き出しの感情が描かれているし、銃で撃たれた人間は『ワイルド・バンチ』みたくスローモーションで"死のバレエ"を踊るし、殺し合いの犠牲になる無実の人々の悲劇もしっかり描かれる。序盤は"ジョン・ウーまたド派手にやってんなー"と呑気に笑えていても、終盤には戦争映画を観ているのかと錯覚するほどの壮絶なヴァイオレンスに言葉を失う羽目になる。

本作の精神的主役は、大人の殺し合いの場に登場する赤ちゃん👶達だろう。壮絶な銃撃戦の最中、病院の窓からひとりひとり赤ちゃんが救出されるシーンと、チョウ・ユンファが最後の赤ちゃんを抱きかかえたまま脱出を図るシーンがアイコニック。『野良犬』のような音楽の対位法演出もなされていて、純真無垢な生命と大量殺人という強烈な対比があった。

裏社会に潜入捜査中の警察官トニーが、複雑かつ"美味しい"キャラクター。長年所属していたギャング団、移籍したばかりのギャング団、警察という相対する3つの組織の間で賢く立ち回らなければならない。トニー・レオンの名演技のおかげもあって、人殺しはしたくないが立場上しなければならないという彼の心の葛藤が痛切に感じられた。人を1人殺める度に折り鶴を1羽折る習慣(今回は白鳩🕊ではなく鶴!笑)が特徴的。警官を誤射殺してしまって茫然自失するシーンが心に残る。

個人的ベストアクションシーンTop3。
第3位。冒頭の茶屋銃撃戦シークエンスでチョウ・ユンファが魅せた、階段の手すりを滑り降りながらの連射。
第2位。ワンカット長回しで撮影された、病院の廊下での銃撃戦。メインのチョウ・ユンファとトニー・レオンは勿論、映像の裏側にいる撮影クルー達の迅速な仕事ぶりにも感動する。
第1位。クライマックス、チョウ・ユンファによる爆発寸前の病院の2階から大脱出ジャンプ。あと数秒タイミングがズレていたら命の危険すらあったであろう超絶スタントに脱帽した。

一番クールだったのは、赤の〈アルファ・ロメオ スパイダー〉に乗ったトニー・レオンが、90年代香港の高層ビル群の間を駆け抜けていくシーン。サックスの艶っぽい音色が響き渡るジャズの伴奏も相まって、気分爽快だった。

ヒロインのテレサ・モウが素敵。オフィスでのチョウ・ユンファとの掛け合いが好きだった。

赤ちゃんのおしっこで足に燃え移った炎が消えちゃうという漫画みたいなシーンがユーモアに溢れていて好き。

密輸グループの無骨な用心棒が、ターミネーター激似。特に、眼帯を装着した後なんかは、ターミネーター以外の何者でもない。笑

冒頭の茶屋襲撃シークエンスに若き日の國村隼が出演している。当時は大阪を拠点とする俳優だったそうだが、『ブラック・レイン』での演技がジョン・ウー監督の目に留まり、本作への出演が決まったとのこと。

これまた、無関係なのに邦題で勝手に『男たちの挽歌』シリーズに組み込まれてしまった不幸な作品。

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