タケオ

トレーニング デイのタケオのレビュー・感想・評価

トレーニング デイ(2001年製作の映画)
3.9
正に、122分間の犯罪地獄ライド‼︎主人公のジェイク(イーサン•ホーク)と同様に、鑑賞者は悪徳刑事アロンゾ•ハリス(デンゼル•ワシントン)によってロサンゼルスのストリートという名の'地獄'を終始引き摺り回される。常識の通用しないインモラルな世界の中で、自らの信念を試される。本作最大のキモは、やはりなんといっても'あの'デンゼル•ワシントンが下劣な悪役を演じているという点だ。このアロンゾという男は、暴力的で私利私欲でしか行動をしない最低最悪のクソ野郎である。にも関わらず、「彼の言動は、実はストリートを生きる上で必要な知識に基づいたものなのでは?」とジェイクや鑑賞者を錯覚させてしまうのは、デンゼル•ワシントンのナイスガイなイメージを逆手に取った巧みなキャスティングの賜物だといえるだろう。また、本作ではなんとマラ•サルバトルチャやクリップスといった"本物のギャングの縄張り"で撮影が行われているため、生々しいストリートの雰囲気を感じることができるのも大きな魅力。こうしたストリートの呼吸を巧みにシナリオへと落とし込むデヴィッド•エアーの手腕も見事だが、小手先の技術に頼ることなくドッシリとしたカメラワークで薄汚れた世界を捉えるアントワーン•フークアの硬派な演出にも惚れ惚れとさせられる。一瞬の判断ミスが命取りとなるストリートでの1日はまるで悪夢のようだが、微塵も希望の光が残っていないのかというとそれも違う。ジェイクが行った唯一真っ当かつ純粋な捜査が、クライマックスの絶体絶命な状況を左右していくのだ。アロンゾの圧倒的な存在感に目を奪われがちだが、ストリートという名の深淵に呑まれることなく、不器用ながらも自らの正義を貫こうとするジェイクこそが、やはり真の主役なのである。残酷かつ強大な世界の中でもがきながらも、自らの信念を貫くことだけは最後まで諦めない。そんな泥臭さと青臭さが堪らない傑作である。
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