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リスボン物語の一人旅のレビュー・感想・評価

リスボン物語(1995年製作の映画)
5.0
ヴィム・ヴェンダース監督作。

撮影中の映画監督の所在を突き止めるべくリスボンの街をさまよう音響技師の姿を描いたロードムービー。
ヴェンダースが生みだす独特の空気に不思議な至福感を覚える。青空から降り注ぐ陽光に明るく照らされたリスボンの街並みの美しさ。街角で騒ぐ子どもたち。狭い街路を移動する路面電車とそれぞれ目的地を目指す乗客たち。日中の明るさと日没後の薄暗さ。夏が近いのだろうか、青々とした緑に半袖で過ごす人々の姿。本作の魅力は物語ではない。飾らない自然体のリスボンの日常をそのまま切り取って作品の中に投影しているようで、映画を観ている、というよりは休暇で実際にリスボンの街なかを歩いているような感覚を覚えてしまうのだ。ジャームッシュの生み出す空気にどこか似ている気もするが、流れる空気の軽やかさと心地よさはやはりヴェンダース特有のもの。
リスボンの日常が奏でる様々な“音”を録音する音響技師を通じて、リスボンの景観に生きた音をプラスする。子どもたちの声。船の警笛。教会の鐘の音。風、海の音。街中の雑音、ざわめき。鑑賞者の視覚と聴覚を最大限に駆使させ、大西洋に面する港湾都市であり世界有数の観光都市であるリスボンの日常全てを浮き彫りにしている。ロードムービーは元々観光映画的要素を含んでいるが、本作はリスボンの何気ない日常の風景を違和感なく溶け込ませていて、観光とはまた少し違うのだ。
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