カカオ

46億年の恋のカカオのネタバレレビュー・内容・結末

46億年の恋(2005年製作の映画)
3.5

このレビューはネタバレを含みます

めちゃくちゃひさしぶりに観た!
大好きな邦画のひとつ。
初めてレンタルしたとき、こころを鷲掴みにされて毎日狂ったように観てたのを思い出した。十年くらい前は当時学生だったので買うという選択肢がなく、返却してはその日にまた借りて……をかなり長くやってたなあ。

他者を壊すことでしか自らを傷つける術を知らず、破滅的な生きかたしかできない香月には自己否定と拒絶が根底に強くあるように思う。
香月の犯した罪などをいっさい肯定する気はないが、彼が彼自身の猟奇的な部分を正当化しないところが好きだ。奪われてばかりでは生きていけない。傷つけられる前に傷つけるのは臆病な自分を隠すためにも見えるときがある。

そして香月は有吉のことをかなり特別視していて、有吉のあどけないほどの肌の白さがまぶしかったのかもしれないし、ただタイプだったのかもしれないし、こんな地獄みたいな場所に似合わない顔で辺りを窺う彼が気になっていたのかもしれない。有吉と似た細身の男を引っかけたのは彼の姿を重ねていたとすると、香月は有吉を直視できないくらいに焦がれかけていたのかなと思ったりもする。
でもそこからどうすればいいかがわからない。そうして愛してもらったことがないし、わからないことは怖いから、ずっとそうして安定から逃げてきたのではないか。犯した罪の重さを知っている。改めるつもりもない。だっていまさら幸福を求めたって叶わないのだし。
そんなふうに諦めるばかりの人生を歩んできたのだとすると、破滅的な生きかたをしているのも、抵抗せずに自らの手を重ねて紐を引く力を込めたのもすこし理解できる気がする。
すべてが妄言だけど。笑

でも何度見てもやっぱり有吉がよくわからない。持ち合わせていた殺人衝動から男の誘いに乗ったのか、出来る(してみたい)と思っていたが目の前でいざ性欲を向けられたことによる拒否反応なのか、好きなものを自分でめちゃくちゃにしないと気が済まないのか、なにかあのホテルで貶しめられるような言葉があったのか、村の掟でなにかそういった儀式があるのか。
なにかを欲するシーンもないし、ただ唯一執着を見せるのが香月だけだから難しい。
光に撃ち抜かれたようにどくどくと血を流す胸を押さえ、その光が香月というように鮮烈に惹かれていくけど、抱きたいとか抱かれたいとか性愛が絡んでるからややこしくなってるだけであって、しかも香月も有吉も性欲(がある自分自身)を汚いものだと思ってる節があるから余計こんがらがってる。有吉に関してはホテルに連れ込まれたときのあれは汚いものだからというより、自分がこう(勇ましく強い男性)だと思った人間以外の精を入れないための拒絶だったかもしれないけど。

たったひとりにしか見えないあの刺青は香月の生き様が見せたものなのか、そうであってほしいと願う有吉が見せたものなのか、わからないことだらけだ。
でも理解したいと思わせる魅力に囚われ続けている。
いまもよく目を凝らすと、宇宙の何億年何十億年も前か先かのいずれかに彼らの恋が彷徨っているような気がする。

この作品のときの松田龍平さんの瞳の演技がかなり好きで、有吉は終始じめじめしていてほんとにかわいい。
カカオ

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