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アフター・ウェディングのLzのレビュー・感想・評価

アフター・ウェディング(2006年製作の映画)
4.2
静謐で切実で、痛々しいほど彼らの感情が染み渡る。

彼らの瞳は想いを語っている。血を交わした瞳、愛を交わした瞳、口に出さずともそれはすべて伝わっている。
手を伸ばせば届く距離に在る、愛する人を、ただ見つめるしか手立てがない。彼らは何度涙を拭いたかもわからず、瞳から零れ落ちるそれらを頬で痛切に感じているのみ。

このような胸の締めつけられ方は今までにありませんでした。何かメッセージを受け取っているわけではなく、ただ、彼らを見て流れてくる涙を止めることが出来なかった。
彼らの見ている景色や情景から、彼ら自身の心情が伝わる。彼らの瞳が見つめるもの自体が、彼らの思いそのものだったように感じました。この映画の中では瞳が大事な役割を担っている。それを私たちも見逃すことは出来ない。

言ってしまえば、終始とても重い内容。今まで観た映画の中でも、比類のない重さを有した作品だったかもしれません。それは境遇や状況から見受けられることではなくて、彼ら自身の人物像から。この作品ばかりは、愛が云々では済ませられない物語だと思います。ただ、とにかく観て欲しい。何も知らないまま、観て欲しい。

登場人物の演技は一級品。
彼らの自然過ぎる演技無しでは、この情景や空気は作れなかったでしょう。これは本当にフィクションなのか?と疑う程の空気感があります。作品としてのありきたりな展開や山場などではなく、本当に存在する人間の脳内から生み出された選択のような、そんな刺激的なリアリティが感じられる物語でした。それでいてドキュメンタリーのように飽き飽き(一部の偏見です)しない。映画として、こんな線を行く作品があるのかと感嘆しました。

痛いだけじゃない、目を覆いたくなるようなものでもない。むしろ惹きつけられ、目を奪われ、呆然とするような棘を刺されました。

当初期待していた映画とは違いましたが、そんなの気にさせない傑作でした。探しても無かったもので、やっと出逢えたことに大いに感謝。
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