なべ

卒業のなべのレビュー・感想・評価

卒業(1967年製作の映画)
4.0
 自分の成長度合いに合わせて、印象がコロコロ変わる映画。平成生まれのダチはベンジャミンをクソ呼ばわり。いや、異常者、ストーカーと罵詈雑言を浴びせていたよw

 初めてこの映画と出合ったのは中一のときのリバイバル上映。たまたま入った映画なのだが、当時の自分の心情に見事にハマっていてすごく衝撃を受けた。劇場を出てからもなんだかじっとしていられなくて、いもしない恋人のもとに駆け出したい衝動に駆られたものだ。オーバーオールを着たまま。

 今どきの若者は本作を名画というよりは不倫コメディとみなすらしい。実は米国でもそう捉えられていたようで、甘酸っぱい青春ムービーとして熱狂した日本の若者は独特らしい。当時は「本当の恋に目覚めた青年の一途なラブストーリー」だったんだよな。そうでしょ? ご同輩。

 人生これからって時に妊娠・出産をして、スタートする前にゴールしてしまったミセス・ロビンソン。金と暇はあるけど目的のない人生に耐えられなくて酒に走ってはみたものの、空いた穴を埋めることができない空虚な女性。
 一方、ベンジャミンは学業優秀でスポーツにも励み、大学院に進もうかって将来を嘱望される若者。ところが彼も自分がどうしたいのか、何をしたいのかわからず、満たせない虚空を内に抱えている。
 こんな2人が嫌な出会い方をしたわけだ。ロビンソン夫人はただ寂しかっただけなのかもしれない。あるいは無垢で何者にもなれる若者を汚してやりたいと思ったのかも。ロビンソン夫人の籠絡ぶりが見事で、30代半ばとは思えないアン・バンクロフトの貫禄がすごい。当時はあのサリバン先生だとはまるで気づかなかった。
 ちょっかいを出されていちいちキョドるダスティン・ホフマンがコミカルで笑っちゃう。これが銀幕デビューって上手いわぁ。ぼくならそんなことにはならないと思ったりしたが、それはたまたまともだちの母ちゃんにエロい人がいなかっただけだからかも。童貞だった当時もアンバンクロフトにセクシーさは感じなかったけどね。
 童貞と熟女の対比がおかしいのと、不倫のきっかけを楽しく見せてしまう演出が鮮やか。
 実家とホテルを行き来するシームレスな編集に度肝を抜かれたし、全編をサイモンとガーファンクルのフォークソングで貫く手法も斬新だった。戯曲っぽい丁々発止の会話劇を映画的演出で構成する新しさに心酔せずにいられようか。
 サントラ盤は買ったし、キャサリン・ロスに惚れたし、陸上部にも入った。もう影響され過ぎ!公務員の小倅とユダヤの豪商のひとり息子とでは境遇がまるで違うのにね。
 今回は10年ぶりくらいに見直したのだけど、ああ、やっぱりぼくにはキラキラしたスペシャルな映画なんだよなあ。どうしても不倫コメディなんて一言では片付けられない。珠玉にしか見えない。
 エレイン略奪後、笑顔が消えて何とも言えない表情になる余韻あるエンディングも含めて、ぼくには超特別な一本なのだが…

追記
 一応、この作品がつくられた時代背景を書いておくと、ヘイズコード(米映画界の自主規制)が撤廃され、不道徳の逆襲が始まった時代。きれいごとじゃない現実を描く作品がつくられるようになって、それまで大っぴらに描けなかった人妻と青年のベッドインなんてシーンも描けるようになった。そういう意味で、誰も撃たれて死なない下半身寄りアメリカンニューシネマの代表作といえるのではないかと。
なべ

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