香港ノワールの金字塔『男たちの挽歌』シリーズの第三弾。
一作目で壮絶な死を遂げた一匹狼、マークの若き頃の姿を描いたベトナム戦争映画。
監督は『ワンチャイ』『ブレード/刀』を手掛けたツイハーク。
本作は『狼』や『ハードボイルド』とは違い、初代から続く正当な時系列の前日譚という位置づけではあるものの、それまで監督を務めていたジョンウーが、製作のツイハークとの仲違いにより撮影から離れてしまう事態となる。
それにより、今までの『挽歌』シリーズにあった勢いは鳴りを潜め、もはや別物といっても過言ではない程にテイストの異なる品物へと変化した。
(むしろ『挽歌』らしさという意味においてでは、ほぼ同時期に公開されたジョンウー監督のベトナム戦争映画『ワイルドブリット』の方が正統派である)
そんなこともあり、この『挽歌3』は香港ノワールの中でもかなり異質な存在として認知されているが、それ故に描写も唯一無二。
実は本作は全ての映画史においてでも珍しい、アメリカ兵が全く登場しない現地の人々によるベトナム戦争映画であり、激動の時代を象徴する地で生きる若者達の青春模様を正確に映し出している。
混乱の最中のサイゴンで愛する者と出会い、裏社会の世界に足を踏み入れていく主人公。
物語開始直後は弱々しかったが、軍隊に入隊したことで見違えるほどに成長する戦災孤児。
第二次世界大戦終結の混乱から、腕っぷし一つでマフィアのボスに成り上がった日本人。
クライマックスでは、男達が軍隊の戦車に立ち向かう構図が繰り広げられ、ベトナムの社会情勢だけでなく、1989年に北京で起きた学生達による民主化運動の暗示が多く含まれてある。
これは従来のベトナム戦争映画とは真逆のアプローチであり、数多くのハリウッド映画に影響を受けた『ワイルドブリット』と比較すると、まるでコインの表と裏のような関係だ。
では、なぜここまでアジア、特にベトナムにフォーカスした物語に仕上がったのかというと、それはツイハークは元々ベトナム出身であり、ベトナム難民として香港に辿り着いた過去が関わっているのではないだろうかと僕は考える。
本作の筋書きはツイハークの経歴になぞらえてある。
物語の中でマーク達は戦火から逃れる為に金を溜めて香港に移住し、マフィアの抗争に巻き込まれた後、全てのケジメをつけるために再びベトナムの地へと舞い降りていく。
そして『ワイルドブリット』も、ジョンウーが幼少期に過ごした香港のスラムから物語が始まり、殺人を犯した主人公達は地獄のベトナムへ逃亡し、裏切った友と決着をつけるため香港へと帰郷する。
どちらも形は違えど、話の根幹にあるのは、暴力に満ちた社会で少年時代を過ごした監督の実体験だ。
物語のラストで北ベトナム軍がサイゴンを陥落させ、旗が変えられていくのを見て、それが何を意味するのか、様々なことを考えさせられるけど、
(どれだけ時代が移り変わろうとも、この瞬間を忘れずに強く正しく生き続けよう)
そのような熱い意志を感じられずにはいられない。
あとこの映画、M16が大活躍するのも好きなポイントの一つ。
一番のおすすめは、アメリカ領事館での決戦でユンファが繰り出すM16二丁持ち!
時任三郎の圧倒的ライバル感も素晴らしい!!