真田ピロシキ

魔法にかけられての真田ピロシキのレビュー・感想・評価

魔法にかけられて(2007年製作の映画)
4.2
昼に見た映画が指向する価値観の全てが受け付けないレベルでイライラしてたので前に見て気に入ってた映画で心を落ち着けることにした(笑)

シンデレラや眠れる森の美女にその他色々な古典ディズニーアニメが凝縮されたメルヘンの世界から現代のニューヨークに飛ばされたプリンセス ジゼル。悪趣味に描こうと思えばいくらだって出来る題材で実際ジゼルが迷い込んでしばらくはメルヘンな彼女とリアルは全く解け合わない。しかし天下のディズニー。自分達のクラシックな世界をニヒルを気取って否定はしない。本作はディズニーが過渡期だった頃。「違う」が口癖だったロバートや自己肯定の出来ない男ナサニエルが変わったように肯定することから変化が始まる。ズートピアもモアナもステレオタイプな過去作を肯定してみせる本作を作れる芯の強さなくしては生み出せなかったと思う。ジゼル自身が邪悪な魔女に剣を持って立ち向かったり、序盤では受け止められていたジゼルがクライマックスで受け止める側に変わっていたりして今に連なる脱プリンセスへの歩みを確かに感じさせる。これはかなり凄いことですよ。

ジゼルに対する男性陣はこの心底嫌気がするセクハラ大国に生きていると安心できる理想像。現実主義者の弁護士でありながら変な(かなり遠慮した表現)若い女性に迷惑かけられながらも困っている姿を見捨てられず下心なく助けようとするロバートは紳士の鑑。対して我が国の現実は40代の有名芸能人が10代の少女にううっ…メルヘンの王子様エドワードは見た目だけでなく魂まで完璧なイケメンで心が!心が!浄化される!真摯に皮肉のないロマンチックな言葉を口に出来る。自分が真実の愛の相手ではないと分かっても動揺もせず嫉妬もせずにジゼルを助けるために即座にロバートに声をかけるそのお姿。助かったら心から嬉しそうな顔をしてあまりに気高い。「ただしイケメンに限る」なんてつまんねー皮肉を言って喜んでる連中は真のイケメンから学ぶべきことが多々ある。エドワード様は無理だろうしロバートも難しいにしても、邪悪への反抗を見せたナサニエル。彼になら心がけ次第でなれないとは言えない。彼らが皆幸せな結末を迎えてとても嬉しい。理想像の追求。物語の持つ力をもっともっと信じていい。

リスの友達は現実的なCGでアニメ的な表情をされるとなかなか気持ちが悪くて序盤にジゼルが動物を呼ぶのもキツいものがある。そこを乗り越えれば楽しい世界。アニメ部分も安心のクオリティなので実写だからと敬遠してるディズニーアニメファンにも是非ご覧になって頂きたい。