いくまる

ブロークバック・マウンテンのいくまるのレビュー・感想・評価

4.0
とても綺麗で痛いくらい辛い物語でした。
ずっと息苦しいのに、最後にダメ押しまでしてくる。
でもずっと変わらず綺麗なんだ、あの山は。

2人にとってのブロークバックマウンテンは同じ「現実に居場所のない自分が唯一自分でいられる場所」だったけれど、イニスにとっては"現実逃避の場"で、ジャックにとっては"神聖な場所"。
そのすれ違いが全てだったあたり、監督やヒースが「普遍的な愛の物語」と言うのも分かる。
何も考えず何も背負わず思うがままに生きられた最後の場所と、純粋に2人きりの世界で生きられた一夏の思い出にすがり続けたまま、20年間不倫をする話とも言えるしな。


ジャックが後ろで裸になるイニスを感じながら決して振り向かないところとか(でも一瞬とても穏やかな表情をする)、メキシコや牧場主(旦那)云々でジャックの恋愛対象が昔から男性だった事がわかる反面、イニスがどうだったかは明言されないんだよね。
過去の出来事からそれが「死に値する程の禁忌」だと思ってはいても。

ジャックの両親は息子の選択を認めていたわけで。
それはつまり、ジャックの夢物語(だと思っていた話)に乗っていれば2人が幸せになる未来もあり得たということで。
あの時あと一歩踏み出せたら、の"あの時"が何度もあった事を一瞬で思い出して後悔しただろうな。
それを背負って生きるこれからのしんどさを思うとね。辛いね。


でも、2人がそれぞれの道を進んだおかげで息吹いた愛もあって。
娘さんの結婚はイニスにとって1つの救いにはなったよね。
20年間ジャックにもちゃんと愛されていたことが、シャツとして形になったのは支えになるだろうし。
ていうかこのシャツに関する伏線が各所で強すぎるだろう。
青いパーカーもあったんだろうな…。


切なさも荒々しさも優しさも全部持っているけれどどこか"ちゃんと不誠実"なイニスを演じるヒース・レジャーの丁寧な役作りはさすがとしか言えないんだけれど。
(しかも1つ前に観た彼の作品がダークナイト)
こんなに陽気で無邪気で純粋で真っ直ぐなジェイク・ギレンホールを見た事が無かったので、今までカメレオン俳優と言えば!で名前を挙げていたのが失礼だったなと思うくらいまた新しい面が見られて良かったです。
2人とも20代後半で20年分の人生を違和感なく演じられるの、凄いなぁ…。


アン・ハサウェイも意外と年齢不詳系なんだなと気づいた1作でした。
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