映画漬廃人伊波興一

天国の門の映画漬廃人伊波興一のレビュー・感想・評価

天国の門(1980年製作の映画)
4.1
あらゆる悪評に立ち向かう覚悟で申し上げます。絶対に無視できない貴重な映画です
マイケル・チミノ「天国の門」

言わずと知れたアメリカ映画史上最も悪評高い一本である「天国の門」を最初に観たのが中学三年生の頃。
当時、ふたつ年上だった女子高生に強引に連れていかれて。
地元でも有名な進学校の女生徒だった彼女がなぜ、私のような劣等生と付き合っていたのか今もって不思議ですが、公開された1981年、デヴィッド・リンチ「エレファント・マン」「イレイザーヘッド」ライナー・ヴェルナー・ファスビンダーの「リリー・マーレーン」とこの「天国の門」に付き合わされました。
こちらどちらかと言えば人気絶頂のジャッキーチェン、あるいは「ウルフェン」「スキャナーズ」「バーニング」といったホラー、もしくはスピルバーグの「レイダース 失われたアーク」あたりを観たかったのですが。。

当然ですが10代半ばのガキの頃にこの作品のペーソスが理解出来るわけがない。
今回調べたら日本初公開時は短縮版149分だったそうですがそれでも相当、長く感じた記憶があります。

10年ほど後に219分版が公開された時にも接した記憶がありますが、緩慢な展開についていけず途中で爆睡。

見納めのつもりで今回チャレンジ。
一気に駆け抜けた219分でした。
我ながら不思議でした。やはりこちらもある程度、齢を重ねなければ咀嚼できない映画ってあるもんです。
まずはヴィルモス・スィグモンドの撮影のすばらしさ。
ごく少量の光を未感光のフィルムにあて、潰れがちな暗部階調を見え易いように操作するフラッシング手法が、当時のワイオミングを郷愁とは異質の懐かしさで私たちに迫ってきます。
険しく広大な雪山山脈を背景に多くの馬車が疾走するシーンが多くありますが、全てに吸い込まれそう。自宅のテレビ画面でさえ、です。
こんな感触は「山の焚火」「家族の灯り」のレナード・ベルタ以来。
出来れば大画面のスクリーンで味わいたいところですが「本物」の映画画面は場所を選びません。

そしてマイケル・チミノの大胆すぎる脚本構成も面白すぎます。大らかであるときは緩慢にすら思えるほど大らかですが、観ている私たちが深い余韻を残しそうなときなどは(知ったことではない)と言わんばかりのぶっきらぼうさ。

そして配役が素晴らしすぎます。
クリストファーソンとウォーケンというWクリスも素晴らしい。
ジェフ・ブリッジスも素晴らしい。
ジョン・ハートも素晴らしい。
当時まだ無名だったミッキー・ロークも素晴らしい。
至宝ともいえるヒロイン・イザベル・ユペールの娼婦がまた美しすぎます。
肢体が美しい。裸体も美しい。瞳と唇が美しく、気性がこの上なく可愛い。
こんな女性と添い遂げられるなら男二人、確かに命を懸ける価値があります。

まだ観ぬお若い映画ファンの方々へ
恐らく調べて無限に出てくる悪評などに惑わされぬように。
時代を越えた作品はいつも公開時は(孤立無援)です。
特に自国の誉れ・クリント・イーストウッドさえ低く捉えていた「ニューヨーク・タイムズ」の批評など冷笑してやり過ごして下さい。
もっとも彼らに言わしめた(映画災害)は」お借りしたいくらい秀逸なキー・ワードですがwww