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天国の門のsueのレビュー・感想・評価

天国の門(1980年製作の映画)
4.2
「天国の門」をようやく観ることができた!
1978年に「ディア・ハンター」でオスカーを獲った鬼才マイケル・チミノ監督が1980年に発表した超大作にして大問題作。

ただでさえ巨額の制作費が監督のこだわりが過ぎて更に4倍に膨らみ、撮影スケジュールは大幅に超過し、ようやく完成した本作は批評家やマスコミからボロクソに叩かれ、興行は当時ギネスに載るくらいの記録的「大コケ」をかました、と聞けばコレはもう触るな危険レベルのやつ。
しかしどうにもスルーできない。ずっと気になってしょうがない。この映画のあと5年間業界から干されてたチミノ監督の復帰作「イヤー・オブ・ザ・ドラゴン」がこれまた傑作だっただけに。

どんだけやらかしていたとしても観る価値はあるに違いない!と思い続けるも機会に恵まれず、2年前にDVDを入手するもオリジナル完全版219分…3時間40分の失敗作の可能性が高い映画に妻子を付き合わせる訳にもいかず、この度の新型コロナの外出自粛により確保できたおひとり様時間を用いて今回ようやく観ることができた!という次第。

…すごい映画だった(ため息)
採算度外視でやりたい放題。「地獄の黙示録」同様にもう二度と創れない映画。
1890年のワイオミング州の市街地を再現したセット。蒸気機関車。群衆。ダンス。
撮影監督ヴィルモス・シグモンドの神懸り的な映像美。美術も衣装デザインも音楽も見事。
何より物語に漲る(古臭い)男のロマン。バイオレンス。対立。友情。疾走。戦闘。悲劇。
マイケル・チミノは自分の好きなものを本作にありったけ詰め込んだ。

始まって1時間すると若くて可愛いイザベル・ユペールが出てきて、さっそく全部脱いでしまう。今や大女優だけど本作では少女のように小柄で愛くるしい。
1時間半するとそんな彼女に若くてキレイなクリストファー・ウォーケンが片想いを募らせている。このツーショットがまた美しい。
2時間経過したら…おぉミッキー・ローク!やっぱ若い頃の彼はカッコいいなぁ。
あと、なかなかアップにならないので確信を持つのに少々時間がかかったけどジェフ・ブリッジスも出ている。

薄暗い屋内に射し込む陽光。
蒸気機関車から続々下りてくる暗殺者集団。
周囲を取り囲まれた多勢に無勢の銃撃戦。
男を救うため必死に馬を飛ばす娼婦。
存在を賭けた移民たちの抵抗。
あぁ映画だなぁと。あらゆる場面で妥協を知らなかった頃のチミノ監督のイメージが爆発している。

確かに長い。その割に登場人物の描き込みが浅くて何を考えているか解らない。わざとそうしてるのかも知れないけど。
冒頭20分のハーバード大学卒業式も船上のエンディングも正直要らない。無くてもストーリーは追えるのに、何故か149分の短縮版にも入っているらしい。
上映時間の長さがプラスになるとしたら、その世界への没入感が深くなるところだろう。
最初は5時間30分あったらしい。それを観ることが叶えば短所に思えた箇所の印象も変わるだろうか。

自己の利益を護るため、後から来た移民たちの排斥に走る自称・真のアメリカ人たちの横暴を正面から描いているだけに、きっと今のトランプアメリカ社会でも駄作として扱われるんだろうな。

自分の買ってたDVDが1枚1000円くらいの廉価版で、画面サイズもリモコンのメニューで調整しなくてはならず、何よりフィルムがあちこちキズや黒焦げが付いていて、映像の魅力が大きいだけに残念だった。
しかし近年この映画を再評価する動きもあってデジタル修復完全版なる円盤が存在すると知った。
配信でいつでも観れる人気作にはならないと思うので、高いけど買おうと思う。

長文すみませんでした。お付き合いいただきありがとうございます。
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