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踏みはずした春のnetfilmsのレビュー・感想・評価

踏みはずした春(1958年製作の映画)
3.7
 50年代のはとバスの営業所の牧歌的な風景。花形バスガイドの緑川奎子(左幸子)は昼の仕事を終えた途端、同僚から夜のデートに誘われる。美人で愛嬌のある彼女は職場で引く手数多だった。奎子はバスガイドの副業として「B・B・S」の仕事もしていた。彼女のルックスを称して「ブリジット・バルドー・スタイル」と揶揄される「B・B・S」は「ビッグ・ブラザース・アンド・シスターズ」の略で、非行少年たちを更生させる運動のことだ。彼女の元に非行少年の信夫(小林旭)が出所して来た。愛情のない家庭に育ち、父親を殺し損ねて少年院から出てきたばかりの彼は、世の中に対して憎しみの目を浮かべていた。最初の夜、信夫は奎子をジャズホールに連れて行った。軽快なジャズ・バンドに羽目を外し、ジョッキ・ビールですっかり酔い潰れた奎子は信夫に目黒沿いの高台にあるホテルへと連れて行かれる。女は酔いが醒めないまま、初めての夜を覚悟しているが、無軌道な19歳は彼女の覚悟など知る由もなく、夜の街へと消えて行く。奎子は信夫が秘かに思いを寄せている幼稚園の事務員の杉田和恵(浅丘ルリ子)に会いに行く。

 清順には珍しい教育映画は、両手に花状態の非行少年である小林旭の演技がまだまだ初々しい。19歳の言いようもない怒りや憎しみは、奎子に問い詰められれば問い詰められるほど逆に意固地になり、なかなか打ち解けようとしない。そんな信夫への奎子の想いは単に「B・B・S」の仕事の枠を超え、ある種異様にも映る。初めて実家に信夫を迎え入れた場面での玄関先での腰砕けのような悶え。疑似家族を演じる様子に信夫も満更でもない様子だが、彼の心の中にはいつだって杉田和恵(浅丘ルリ子)がいる。清順のカメラはまるでヌーヴェルヴァーグの同志たちと同様に、撮影所の息苦しさから積極的に屋外へと出て行く。まだまだ復興の色濃い50年代後半の代官山駅周辺の街並み。渋谷駅前では撮影に気付いた見物客がカメラの前で繰り広げられる演技に見入っている。初期の清順のフィルモグラフィにおいて例外的にアクション場面が少ない作品だが、後半の豪雨の中繰り広げられるキャバレー裏での高低差のあるアクションが鮮烈な印象を残す。左幸子ということで羽仁進の『非行少年』が思い出されるがあちらよりも3年早く、トリュフォーの『大人は判ってくれない』よりも1年早いことに驚く。専ら少年の目を通して語られる非行映画に対し、奎子は信夫を通して青春時代の終わりを痛切に感じることになる。これは信夫ではなく、奎子の物語なのだ。
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