「壁あつき部屋 (英語題名The Thick-Walled Room)」は、1956年公開の110分の白黒作品。反アメリカ的なシーンのカットを日本政府が要求し、これを小林正樹監督が拒否したため1953年に完成していた作品の公開が3年遅れた。原作は“「壁あつき部屋」-BC級戦犯手記(理論社刊)”で、脚本は安倍公房による社会派作品。本作の冒頭は終戦後4年であり1949年だが、朝鮮戦争(1950年)が作中で勃発している。舞台はSUGAMO PRISON「巣鴨プリズン、巣鴨拘置所」で、1948年に東条英機ら7名の死刑が執行された場所としても知られるが、本作でも東条が処刑された処刑場が再現されており、十三階段や血糊付着した壁板が映し出される。本作では、BC級戦犯が強制労働に苦しみ、釈放を望んでいるが、歴史的に最後の戦犯18名が釈放されるのは1958年であり、映画公開時にも戦犯は収容されていた。米軍占領下で、米軍の管理下で重労働を強いられ、また戦時中の犯罪の記憶からも精神的に追い詰められていく元日本兵を描いた作品は貴重。戦時中のA級戦犯の戦争責任、戦争に反対できずに従軍し侵略地で民間人を殺害したBC級戦犯、朝鮮半島出身のBC級戦犯、無垢な少女から売春婦へと転身する女(演:岸恵子)、平和を希求するコミュニストなど印象に残るキャラクターが複数登場。戦時中に行った戦争犯罪を上官が部下に被せるエピソード、朝鮮戦争の勃発に伴う右傾化・反動的潮流への批判、日本の戦争犯罪の責任はA戦犯・軍部にあることの訴え、朝鮮半島出身者への差別を描く本作は当時の安倍公房の政治的思想と一致している(安倍公房は1951年に日本共産党に入党するが、1961年に除名されている)。