ほーりー

二十四の瞳のほーりーのレビュー・感想・評価

二十四の瞳(1954年製作の映画)
4.6
かつて由紀さおりが言っていたけど、日本のように子供たちの歌がこんなに多い国は他にないそうな。

わらべ歌からはじまり、明治の頃の文部省唱歌、そして大正期における雑誌『赤い鳥』によって多くの童謡が誕生した日本だからこそ本作は成立するように思う。

やがて童謡から時代は軍歌・戦時歌謡に変貌する。言わば本作は、童謡・唱歌・軍歌で綴る庶民の昭和史である。

木下惠介監督の最高傑作『二十四の瞳』。主演は勿論、高峰秀子!

木下監督って『カルメン純情す』や『楢山節考』とどちらかと言うと奇をてらった演出の方が重きになってて個人的にはちょっとなぁと思うのだが、本作はそんなケレン味が一切ない感動的なドラマである。

見事に小豆島の四季折々の風景を捉え、その光景に最高にあったドラマが展開されるから観てて嫌味がなく純粋に心がうたれるのである。

木下監督の弟子の松山善三氏(デコちゃんの旦那さんですね)曰く、木下惠介は《自然を映し出す》のが最高に上手い人で、反対に黒澤明は《自然を作り出す》人って言っていたけど巧い表現だなぁ。

昭和三年、小豆島の分教場に新人の大石先生(演:高峰)が赴任する。初めて受け持った生徒は十二人の一年生。

自転車と洋装でやってきたこの新人先生に大人たちは怪訝な目で見るが、子供たちの方はすぐさま明るい先生の人柄に慕うようになる。

最初観ただけだと生徒の顔と名前が一致しなくて頭の中がちょっと?マークになって、これが二回、三回と繰り返して観ると、最初の新学期での生徒の出欠確認のシーンだけでウルッと来てしまう。

物語はその後、大石先生の結婚、生徒たちの卒業、そして暗く悲しい戦争の時代へと突入していく。

ある女の子は家計を助ける為に学校を辞めて奉公に行き、またある女の子は肺病を患い死の床にふせ、男の子たちは全員戦争に駆り出され、やがて何人か無言の凱旋で戻ってきた。

不運は生徒たちだけではなく大石先生自身にも振りかかり、大切な家族を何人も失うことになる。

いかに二十世紀前半の日本人が貧困や戦争に耐え抜いてきたのがよぉくわかる。

ラストの謝恩会シーンは三段構えで泣かしにかかってくるから困る。

もう全員が揃うことが叶わない宴で、大人になった女子生徒(演:月丘夢路)が『浜辺の歌』を歌う。これは一番楽しかった思い出=修学旅行で客船の中で皆で歌った懐かしい歌である。

その歌声が流れ、再び小豆島の自然をバックに自転車が颯爽と横切る。このシーンを思い出しただけでも目が潤む。

昭和が生んだ最高の《映画》女優・高峰秀子。それこそ数限りないほど名作に出たスターだけど、極めつけはやはり『浮雲』よりも断然本作だと思う。

ちなみにそんな高峰秀子と本作で夫役を演じたのが何と天本英世……死神博士!である。

だけど本作の天本さんは精悍な感じで、遊覧船での場面なんかパッと見、吉田栄作のような美男に見えるから不思議だ。

■映画 DATA==========================
監督:木下惠介
脚本:木下惠介
製作:桑田良太郎
音楽:木下忠司
撮影:楠田浩之
公開:1954年9月15日(日)
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