カルダモン

蛇イチゴのカルダモンのレビュー・感想・評価

蛇イチゴ(2003年製作の映画)
4.2
普通の家、普通の親子、普通の幸せ。だったはずなのに、毎日真面目に働いていると思っていた父親が実は借金まみれで仕事も辞めていた。久々に実家に帰ってきた息子に光明を見いだす家族。藁にもすがる思いが徐々に消えそうに。

この作品に流れる適当さ、空気の緩んだ感じが結構好きで、時々見返したくなる映画。ブラックなんだけど間抜けで笑っちゃう。でも要所でハッとするほど恐ろしい現実味が姿を表したり油断できない。
西川美和のデビュー作ですが既に手堅い。手堅さゆえに苦手な方向に転びそうな気配もありつつ、キャスティングの魅力でいい塩梅。特に適当なダメ息子でありダメ弟を演じた宮迫博之の味わい。どういう経緯で白羽の矢が立ったのかわからないけれど見事な目利きじゃないでしょうか。平泉成や手塚とおるなど脇を固める俳優も楽しい。特にお気に入りなのが母親を演じる大谷直子。後半にかけて投げやりになってくる感じ、最高です。

何気ない会話の中で発生する微妙にイヤな一言や、気まずい空気が居心地悪い。そしてドン底まで落とさない寸止めのような笑いが状況を際立たせていて、笑いながら心臓がキリキリと痛い。円満だと思っていた家族も一皮むけば他人のようにわからない。それでも繋がっている感覚こそが絆なのかもしれない。

絆。
あまり好きな言葉じゃないし使うこともないけど、この映画にはどうしようもない状況になっても切れない何かを感じる。大黒柱が腐って折れて、幸せな家庭が屋台崩しの如くへしゃげていく。徐々にメッキが剥がれて、メンツも体裁もあったものではない。それでも簡単に家族は切れないものなのかも。



余談
劇伴を担当したカリフラーズの曲『まごころの手料理』がいい感じ。DVDにはライブ映像や、西川美和と是枝裕和のお散歩対談が見られます。井の頭公園とかスターパインズカフェとか。


2009年の立命館大学で行われたトークセッションで『蛇いちご』が取り上げられていて、テキスト化されていたので貼っておきます。面白いです。
http://www.ritsumeihuman.com/cinema/cinema1_4.html