和桜

蛇イチゴの和桜のレビュー・感想・評価

蛇イチゴ(2003年製作の映画)
3.9
嘘の中にこそ真実を見いだしてきた西川美和監督のデビュー作。彼女の名前を知らしめたのは次作『ゆれる』だけど、この映画も西川監督らしい「嘘」を基調にした完成度の高い作品。ちなみにプロデューサーには師匠である是枝監督が加わってる。
リストラされ借金まで抱えた父親の隠し事をキッカケに、一家の本音と建前が裏返っていくシュールでコメディチックな家庭崩壊劇。キーとなるのはかつて父親に家を追い出された長男で、その父の後始末のために今度は父母から掌を返したように救世主扱いされる。ただし、嘘は絶対につかない妹だけが嘘しかつかない兄を疑い、観客は長男が何を考えているのか読めなくなってくる。

この家族は確かに「嘘」が原因となり転落していくんだけだけど、同時に嘘がバレることで向き合えた部分も少なからずある。人は多かれ少なかれ嘘をつく生き物で、嘘を通してしか接する事が出来ない人もいる。だからこそ嘘が剥がれ落ちた瞬間に出てくる言葉や表情には真実味があり、フィクションの中にそんなリアルを写し込む姿勢は今後の西川作品にも受け継がれていく。
来年はそんな監督の最新作であり『身分帳』の映画化ということでかなり楽しみ。
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