安堵霊タラコフスキー

浮き雲の安堵霊タラコフスキーのレビュー・感想・評価

浮き雲(1996年製作の映画)
5.0
カウリスマキの作品は好きなものばかりだけど、強いてベストを挙げるならこの作品か。

失業者の苦境と再起という主題は後の作品に通じるものがあり、作品の洗練具合もそれまでの積み重ねが結実したものがあり、色々な意味でカウリスマキを代表する作品となっている。

作品それ自体としても序盤の路面電車内の侘しくもロマンチックな一時や中盤の老人たちの歌とダンス等心に沁みる場面が多々見られ、話としても作品全体で弱き者たちへの憐憫の情がひしひしと作りに見ている側としても同情を禁じ得ず、それ故に最後で細やかな希望が見えるとこちらも嬉しくなるのだけど、淡々とした描き方でここまで感情移入させる作りにできるのは流石としか言い様が無い。

映画館に飾られたポスターがジャームッシュにブレッソンにジャン・ヴィゴの代表作という趣味全開のラインナップだったり、酒飲みのシェフだけ悪酔いしないよう最後の乾杯のときオレンジジュースが配られていたりと、小ネタにもカウリスマキらしい面白さがあってこの抜け目無さもまた良い。

この作品でコンペティション部門に出品されてからカンヌの常連と化すカウリスマキであるけど、こんな独特で愛おしい世界観の監督を贔屓したくなるのは当然のことだろう。

しかしカウリスマキ作品を知ったばかりの頃はよくわからなかったけれども、ラストに挿入される「マッティ・ペロンパーに捧ぐ」の文言には今見るとしんみりせずにはいられない。