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浮き雲のpanpieのレビュー・感想・評価

浮き雲(1996年製作の映画)
5.0
「愛しのタチアナ」と同じDVDに入っていてこちらが観たくてレンタルした。

レストランの給仕長を務めるイロナの従業員のトラブルに迅速に対処する冒頭のシーンで引き込まれた。
イロナはこの店で頼りになる存在なんだな。
女性が活躍してそうなイメージのある北欧は女性蔑視は少ないイメージだったけど案外そうでもないのかな。
それより失業率が凄い事に驚かされた。
でも1995年頃の映画だから今はもしかしたらもっと失業率が高いのかもしれない。

夫のラウリは電車の運転手をしている。
現在の電車は宇宙っぽい形をしているけど一昔前の札幌の電車と外観が全くそっくりだった。
配色も同じってどちらかが真似たのかな?
姉妹都市とか?
そこからなんか親近感が湧いた。

ソファやテレビをローンで買って4年くらいなら払えるだろうと言っていたが不況で夫のラウリがクビになってしまう。
どうする?
私も来年で払い終わるから大丈夫と安易に買い物をするんだけどほんと突然解雇されたら残りのローンはどうなるのだろうとちょっと観ていて鳥肌が立った。
職を失っても少しは蓄えはあるし夫婦共働きなので取り敢えず大丈夫と思っていたら今度は妻のイロナまで!
こんな酷い事ってある?

なかなか仕事が見つからないラウリよりイロナは本来なら給仕長の仕事をしたいのだが見つからないので皿洗いでも仕事を見つけようと懸命な姿が胸を打つ。
ラウリも頑張っているがなかなか職は決まらない。
今作は今まで観たカウリスマキ 作品以上にタバコをスパスパ吸うし北欧の人は喫煙率高いのかな。
まぁこんな状況になったらストレスが溜まるし酒かタバコの量が増えても無理もない。

どんなに頑張っても仕事は見つからない。
それどころか職を斡旋する為に手数料を取る業者がいたり「希望のかなた」ではポーカーで大勝するが今作では全部すってしまったり見ていて本当に辛い。
人生は時に頑張れば頑張る程上手くいかなくて空回りして自暴自棄になって泣きたくなる事もある。
イロナとラウリ夫婦だけじゃなくイロナの元同僚達も路頭に迷っている。
皆真面目な仕事熱心な人ばかりだったのになかなか職が見つからない。
あの元コックはアル中になってしまった。
皆状況が全然良くならなくて観ていて本当に辛い。
仕事は出来れば休みたいなんて思っていたけどもし仕事を失ったら最初は神様がくれた休日を楽しんでいたとしてもだんだん働けない事が辛いと感じると思う。
働く事で辛いと思う事もあるけれどそこから頑張った後の喜びを一度でも味わった事のある人は働く事はやめられないと思う。
とは言ってもやっぱり休みたい。笑

運良く職を見つけたイロナだけど更なる悲劇が襲う。
やっと見つけた仕事は給仕も皿洗いも調理もこなさなければならなかった。
いい店にしてみせると頑張るイロナだがこの店のオーナーのフォルストロムがクソ野郎で時々来ては店の売り上げをほとんど持って行ってしまうし給料を払ってはくれる気配はない。
業を煮やし妻の給料を取りに行ったラウリは酷い目に遭わされる。
一向に良くならない展開に流石に観ている私も落ち込みかけた時やっと女神が微笑みかける。

本当にここまで長かった!
職探しで訪れた美容院に以前働いていたレストランの支配人と偶然の再会を果たす。
店を手放さなければならなかった彼女の苦しみもよく分かったがそこからまた立ち直って何か始めたいと考えていた時に磁石が引き合う様にイロナとまた出会った。
とんだ回り道をしたけどイロナの以前の真面目な働きぶりと人柄を評価してくれた支配人も素敵だしやはり真面目に働くとそれをちゃんと見ていてくれて信頼してくれる人がいるという報われた結末はそれまで観ていた私達も一緒に職探しをしていた様な気持ちになりイロナの喜びが自分の事の様に感じられた筈だ。
やっぱり結末はこうでなきゃ!というラストに感動した。
頑張ってね、イロナ。
泣きながらイロナにエールを送った。


あの夫婦が買ったSONYのテレビ、昔うちにあったブラウン管テレビだった。笑
後ろが分厚くて懐かしい。
お世話になりました。
SONYが大好きな夫は買い替える度に浮気する事なくいつもSONYです。
やっぱりカウリスマキ監督日本贔屓!

レストランを買収に来た男が二谷英明にびっくりするほどそっくりだった!笑

カウリスマキ作品に出てくるわんこは痩せていて哀愁漂っているけど顔が可愛い。
今作のわんこ、顔は勿論色も模様も千切れんばかりに振るしっぽも可愛らしかった!

夫婦で映画館を途中で出るシーンで壁に貼られていたポスターが「Night On Earth」だった!
二人は親交があるんだろうな。作風に同じ匂いを感じるし。
ジャームッシュは洗練されてるイメージでカウリスマキ の方が登場する俳優に少し野暮な感じがするので親しみやすい感じがする。


二人の心も離れかけた時でさえやり直そうとバラの花束を持ってイロナに会いに来たラウリ。
飼っているわんこと寂しそうに公園のベンチに座り戯れるラウリ。
採用試験に何度も落ちて拠り所だった運転免許も取り上げられ絶望したラウリの事がとても気になっていたのだけどあのお店にラウリの姿を見つけて私は嬉しかった。
人生どん底にいても捨てたもんじゃない!
頑張って生きていれば必ず道が拓ける!
どん底を味わったからこそまた働ける事の喜びに溢れたラストの皆の顔が幸せそうで沁みた。
これからどん底の人生を送る事があってもこの映画を忘れずに思い出したい。
日々頑張っていれば必ず誰かが見ていて救いの手が差し伸べられるって信じたい。
フォローしている方が高評価なのが納得!
今のところカウリスマキ でこれがベスト。
素敵な映画だった。
このあたたかな余韻にしばらく浸っていたい。
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