小イカ

オープニング・ナイトの小イカのレビュー・感想・評価

オープニング・ナイト(1978年製作の映画)
5.0
すごかった、面白かった、なんだこれ‥‥‥ 前に何かの本で下手くそがカサヴェデスを真似しようとすると単にクサくてベタなだけの凡作が出来上がるって書いてあるのを読んだことがあるけど、確かに絶妙なバランス感覚だった。序盤のホテルの部屋で、男女が言葉を交わしながら徐々に距離を縮めていく場面の背後で流れるわざとらしいぐらい大音量のBGMとか、いざ抱擁しようとした瞬間に鳴り響く電話のベルとか、始めの方は異化作用でも狙ってんのかってぐらいコテコテだったけど(しかしそれが不思議とクサくない)、途中からは全然鼻に付くところがなかった。似たような系統の監督の濱口竜介は丁寧って印象だったけど、こっちは丁寧さすら感じさせないほど自然な演出だった。役者が画面手前に歩いていく動きに合わせて、緩やかに移動するカメラが徐々に役者の顔面にズームしていく流れがスムーズすぎて騙されたような気持ちになる。切り返しショットの途中で変な視点からのショットを入れてみたり(あと当然のように鏡の中の自分と切り返すな)、会話の途中でバッサリカットして次の場面に移ってみたりとか、割と繋ぎ方も面白かった。バランスで言えば、真剣にやってる箇所と、真剣にふざけてる箇所の配分も絶妙だった。こんだけやりたい放題詰め込んで空中分解することなく話を纏められるのは驚異的だと思う。144分間一度も退屈しなかったし間延びするところがなかった。これは上に書いた大胆な時間処理の効果も大いに関係していると思う。真顔で降霊会に行くな、本番前に泥酔するな。繰り返しになるが普通にやったらどっちらけか、良くて滑稽な三流コメディーになるところを余りにも素知らぬ顔で進行していくのでこちらも可笑しく真剣に見入ってしまう。「おばけの視点」があったのが怖くて良かった。最後は正直泣いた‥‥‥‥ シンプルに好きだ
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