巨匠、木下惠介監督
笠智衆「私は小津監督の作品に多く出ている印象を与えるが、本数で言えば木下作品のほうが実は多く出ている」
ふむふむ
でもこの映画には出演してないのが残念なところ。
永谷園かもしくは歌舞伎揚げみたいな幕が開くと、水戸黄門が歩いてくる。東野英治郎。初代水戸黄門から始まるオープニングに思わず嬉しくなります。好きなんですよね。あのしわくちゃの笑顔。
齢70を越えたら楢山にゆくというならわし
「ならやまぶしこう」と読むんですね
山奥の集落は、村社会独特の因習の恐ろしさが漂い、貧しさが滲み出ていました。口減らししないと冬を越すことすらできない。一家全滅も珍しくない程のひもじさ。姥捨て山の伝説。
それにしても、これ、全部セットなの?こんなの観たことないんだけど。すごいんだけど。世界に誇っていいレベルだと思います個人的に。
シーンの切り替わりも大胆に、まるで歌舞伎みたいなナレーションは、何を言っているのか聞き取れない所も多かったけど、それでもなんとか7割ぐらいは理解できたので良しとしよう。
胸はって楢山様のもとへゆく者
老醜を晒してがむしゃらにあがく者
終活に励む母
人が良すぎて泣けてくる
しかし健康な歯のお陰で死にそうにない
村の衆にまで嗤われる口惜しさ
憎い
歯が憎い
この丈夫な歯が憎い…
この役のために、田中絹代は自らの前歯を4本抜いたと言います。やり過ぎです。鬼気迫るほどの歯を折るシーンの異様さ。観てるこっちの奥歯までガタガタ言わされそうになる。
それにしても…
こんのバカ息子がーー!!いい歳してなにしとんじゃあ💢
母想いの「辰平」と違い、この「けさ吉」は親心をこれっぽっちも理解できない。ただの穀潰し。だけどこのけさ吉のお陰で辰平の優しさが際立つ。なるほど。
逃げ場など何処にもないその葛藤が迫ってくる。
三味線の音が鳴り響く
せつない
せつなすぎる
なんだこれ
盗みでもしなければ生きていけないほどの貧しさがつらい。恐ろしい村の掟。紫色に染まる世界。楢山様に謝れ!!という一大イベント。血塗られて真っ赤に染まる空は、残酷というよりも憐れな哀しみだけを照らし出していたような気がします。歌舞伎みたいな演出が素晴らしいですね。歌舞伎、観たことないけど。
「お山へゆく作法は必ず守って貰いやしょう…」
分かった分かった。分かったけど、長すぎるよねその作法。覚えられる気がしない。しかもよく観たら二代目水戸黄門の西村晃じゃないですか。ここに来てまさかの黄門づくし。ちょっとご老公、市井に干渉し過ぎじゃない?
お腹を痛めた子に背負われて、捨てられるためだけに姥捨て山に向かう。母の心情を思うと胸が詰まる。心根の優しい母想いの辰平。楢山様の恐ろしさ。
二人はいったいどんな気持ちで山を登ったのだろうか。
こんな今生の別れがあっていいのだろうか。
(;Д;)
雪が泣いていました。
「(これが一番ええんじゃ。これでええんじゃ)」
声にこそ出さないが、心に語りかけてくる田中絹代の演技が素晴らしい。凛とした覚悟は子を想う優しさで溢れていました。
(TДT)
悲痛な魂の叫び。いたわりの心。かつて山に呑み込まれて消えていった数多の老いた命たち。運命を覚悟して生きる生き方は、やっぱりやるせなくなってしまいます。地名に残る「おばすて」の文字だけが、無言で語りかけてくるのです😢