晴れない空の降らない雨

COWBOY BEBOP 天国の扉の晴れない空の降らない雨のレビュー・感想・評価

COWBOY BEBOP 天国の扉(2001年製作の映画)
4.2
 本作のスタッフが再結集した『スペース☆ダンディ』のほうが100倍好きだけど、たまたまNetflixで発見した勢いでテレビシリーズをつい全話観てしまい、そのまま劇場版へ(こっちは初)。お話自体はテレビシリーズのシリアス回となんら変わらないので、そこは少し物足らない。
 あのTV番組とかジジイトリオとか細かいネタ含め、ファンが観たいものはすべて押さえてあり、あくまでファンサービスとしては満点に近い。気障なセリフ、丁々発止の掛け合い、これ見よがしの喫煙、菅野よう子の作曲、スタイリッシュな格闘、気の利いた演出、ほろ苦い後味、エトセトラ。どこをとっても「これぞビバップ」。これを観ると、シリーズが描きたかったものを再認識できる。この作品、要するに、とにかく自分たちの好きなものをありったけアニメというスープで煮込んだB級グルメなんだけど、それが許されるのがサブカルとしての和製アニメの特権だし、優れた作品が備えている特徴だと思う。
 
 このシリーズで真っ先に目につくのは、徹底的にコスモポリタンな世界観だろう。本劇場版でも、マラケシュ旧市街を元にしたと思しきスラム街が登場。ダイバーシティは近未来・宇宙SFではごく当たり前の設定だけど、本作では日本が意識的に排除されているのが興味深い。いちおうテレビの字幕には日本語もあるが視聴者向けだろうし、ふつうの和製SFアニメなら絶対に日本設定にしてくるところがすべて中国である。先見の明……というよりは、単にチャイニーズ・マフィアとかカンフーとか出したかっただけだろうけど。
 テレビだとサンライズ制作だったのがボンズに変わっていて驚いたけど、作監の川元利浩はじめスタッフの多くがテレビ版の後でボンズを立ち上げたのか。
  
 作画はさすがにパワーアップ(していなきゃ困る)。格闘シーンでは中村豊のタメの効いた長回しアクションが炸裂。こないだレビューした中華アニメも、中村・松本憲生からかなり影響受けていたように思う。『ストレンヂア』とか『ハガレン劇場版』とか観ていると、あの人か!ってなる。この劇場版では、アクションパートの作監に昇進し、絵コンテも描いているみたい。中盤のモップバトルが素晴らしすぎる。ラストの直前の会話パートが静止画の長回しなのだが、そのあとアクションが炸裂するので溜めとして効いている。
 最近のボンズアニメを観てみると、フォロワーばかりなのか似たり寄ったりワンパターンで飽きる。
 格闘だけでなく、航空戦も見物。ここは板野一郎とそのフォロワーでが固められていて、目まぐるしいサーカスが繰り広げられる。操縦桿の振動とか、スパイクの頬のプルプルとか、コックピット内のカットを挟んでリアリティを付与する。
 全体の基調はリアル系で、沖浦がロトスコ風のOPアニメーションを担当しているのも、その点をあらかじめ印象づけるためだろう。