LalaーMukuーMerry

ショコラのLalaーMukuーMerryのレビュー・感想・評価

ショコラ(2000年製作の映画)
3.8
チョコレートは結晶で、温度によって結晶相転移が起きる。その相転移をきちんと制御して望む結晶にすることがおいしいチョコをつくる鍵である、という事を知ったのは20年近く前のこと。チョコのような食品に、物理の言葉である結晶だの相転移だのが使われるのが新鮮で意外だった。
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結晶(クリスタル)というのは、原子や分子が規則的に繰り返し配列したもの、当然固体。その並びが不規則なものはアモルファスという。アモルファスの代表はガラス。よくクリスタル〇〇といった名前を冠した建物や部屋があって、それにはたいていガラスの装飾がふんだんに使ってあるけれど、あれは実は看板に偽りありです(アモルファス〇〇と言うべき)
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結晶かアモルファスか、結晶ならどんな結晶構造をしているかはX線回折でわかる。原子の並びの間隔に近い波長の波(つまりX線)を当ててやると回折現象が起こって、特定の方向で波の強度が強まる。その方向と回折波の強度を調べると結晶構造の情報が得られる。単結晶なら特有の斑点像が現れるが、チョコレートのような微結晶の集合体では同心円のリング像になる。そのリングを詳細に解析して結晶構造を同定する。
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チョコレートの主成分はカカオ豆から絞ったカカオバター(油脂)と残りのカカオマス。このうちチョコの口当たりとおいしさを左右するのはカカオバターの結晶。カカオバターの主成分はトリアシルグリセロールという一群の物質で、高い温度では液状だが、冷やしていくと固体になる過程で液の中に微結晶が生じる。熱力学的に安定なのはIV型と呼ばれる結晶構造なのだが、冷やしていく途中のある温度領域でV型と呼ばれる不安定な結晶構造もとる。このV型がおいしいチョコのもとだ。
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だから、おいしいチョコつくりのためには、結晶成長の理屈を知って、V型の結晶を上手につくる必要がある。塩の水溶液から塩の結晶を析出させるのと似ている。温度を冷やしていくと飽和濃度に達して結晶の元になるもの(結晶核)が生じ、その核を中心にして結晶が成長していく。急に冷やすと一気に過飽和になってたくさんの結晶核が一度にできてしまうので大きな一つの結晶にはならない。大きな結晶を作るためには、ゆっくりと温度(濃度)をコントロールしなければならない。結晶核となる小さな異物を入れておくことも有効だ。
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同じ様にチョコの結晶も、冷やす時に肝心の温度領域をいかにゆっくりと通過させるかが大事だ(これをテンパリングというらしい)。この温度範囲は原料カカオや添加物によって微妙に変わるので、温度管理の方法は専門店やメーカーの大切なノウハウだ。V型結晶を比較的安定にとりやすい特定のトリアシルグリセロールの粉末を冷却時にいれて結晶核として利用することが今では行われているようだ。
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チョコは意外と奥が深い。素人がチョコを湯煎して自作のチョコを作っても、このことを知らないとIV型結晶のチョコになってしまう(口当たりのわるいやつ)。ネットによれば、ホワイトチョコを作る理系男子の新常識になりつつあるようですよ。
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V型結晶は不安定ではかないもの。だからおいしいチョコはなるべく早く食べましょう。長期間置いておくといつのまにかIV型結晶に相転移してまずくなります。白い粉が表面に出ていたらそれはIV型結晶です。
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映画のストーリーと全く関係ない話になりました。お許しを。