ニコラス・ローグは日本未公開の『錆びた黄金』を観てからあまりに退屈で敬遠していたけど、この作品はすれ違う夫婦と勘違いによる思い込みがしっかり映像として語られている。
物語としても曖昧で靄がかかったような話だが、編集と撮影が神がかり的にマッチしており後半へ進むにつれてより引き込まれていくような映画だった。
人気のない巨大な空洞のようなベネチアの雰囲気、それが賑わいのあるストリートから横道に一本入っただけという日常と錯乱の境目など全編に渡って不穏さがあった。
手持ち撮影のような構図の定まらなさやしばしば挿入されるフラッシュフォワードやフラッシュバックのカットが全て不穏で心地良い。
